あなたの隣を独り占めしたい(続編まで完結)
この日は、マッチングアプリで初めて会いたいなと思った人との初デートの日だった。
お互いまだハンドルネームで呼び合っていて、私は相手の方を『よっぴーさん』と呼んでいて、相手は私を『しおちゃん』と呼んでいる。
(話が弾む人だといいな)
駅の化粧室でパンツを秋色のタイトスカートに替え、ジャケットを羽織り直す。
少し頬に赤みも加えると、女性らしい自分が戻ってきたのを感じた。
鏡の中で自分に笑顔を戻し、いざ……と、待ち合わせの居酒屋に入ると、
「あ、しおちゃん! こっち」
私を見るなり笑顔で手を上げた男性は、思ったより落ち着いた雰囲気の紳士だ。
「よっぴーさん…ですよね? はじめまして」
側まで歩み寄って、ふと足が止まる。
よっぴーさんの横に、なぜか佐伯さんがいたのだ。
「どうして、佐伯さんが?」
「たまたまなんだけど……偶然って恐ろしいね」
佐伯さんも目を瞬かせながら、私を見上げた。
「え、しおちゃんって佐伯の知り合いなの?」
「知り合いっていうか……彼女、俺の部下なんだ」
「ええっ」
よっぴーさんは佐伯さんが最初に勤めた先で同僚だった人で、さっき偶然会って、私を待ちながら昔話をしていたところだという。
(そんな偶然あるんだ)
唖然としつつ、私は席につくこともできずに躊躇っていた。
(気まずいなぁ)
会社では女を封印しているのに、今はしっかりデート用にお洒落をしているのだ。
まだ男探しを諦めてなかったのかと、嫌味を言われそうだ。
「……」
「……」
沈黙している私たちを見て、よっぴーさんが思いがけず私に謝る。
「ごめんね、しおちゃん。今回のマッチングはなかったことにしてくれないかな」
「えっ」
なぜかよっぴーさんも私に劣らずきまずそうだ。
佐伯さんは固まる私をチラリと見た後、小さなため息の後よっぴーさんに言った。
「吉村、悪いけどこのまま彼女を預かっていい?」
(……え?)
「あ、ああ。でも、このことは……」
「わかってる。誰にも言わないよ」
佐伯さんの答えを聞き、よっぴーさんはどこかほっとした表情で頷く。
そしてお札をテーブルに置くと、私に軽く笑みだけ残してお店を出て行った。
(ええ……どういうこと)
動揺を隠せずにいると、佐伯さんは改めて席を立って私を見る。
「せっかくだし、このまま誘っていい?」
「……どこへ行くんですか」
「俺の行きつけのバーがいいかなって思ってるんだけど」
こんな思わぬ流れで、私はまた佐伯さんと縁を持つことになってしまったのだった。
お互いまだハンドルネームで呼び合っていて、私は相手の方を『よっぴーさん』と呼んでいて、相手は私を『しおちゃん』と呼んでいる。
(話が弾む人だといいな)
駅の化粧室でパンツを秋色のタイトスカートに替え、ジャケットを羽織り直す。
少し頬に赤みも加えると、女性らしい自分が戻ってきたのを感じた。
鏡の中で自分に笑顔を戻し、いざ……と、待ち合わせの居酒屋に入ると、
「あ、しおちゃん! こっち」
私を見るなり笑顔で手を上げた男性は、思ったより落ち着いた雰囲気の紳士だ。
「よっぴーさん…ですよね? はじめまして」
側まで歩み寄って、ふと足が止まる。
よっぴーさんの横に、なぜか佐伯さんがいたのだ。
「どうして、佐伯さんが?」
「たまたまなんだけど……偶然って恐ろしいね」
佐伯さんも目を瞬かせながら、私を見上げた。
「え、しおちゃんって佐伯の知り合いなの?」
「知り合いっていうか……彼女、俺の部下なんだ」
「ええっ」
よっぴーさんは佐伯さんが最初に勤めた先で同僚だった人で、さっき偶然会って、私を待ちながら昔話をしていたところだという。
(そんな偶然あるんだ)
唖然としつつ、私は席につくこともできずに躊躇っていた。
(気まずいなぁ)
会社では女を封印しているのに、今はしっかりデート用にお洒落をしているのだ。
まだ男探しを諦めてなかったのかと、嫌味を言われそうだ。
「……」
「……」
沈黙している私たちを見て、よっぴーさんが思いがけず私に謝る。
「ごめんね、しおちゃん。今回のマッチングはなかったことにしてくれないかな」
「えっ」
なぜかよっぴーさんも私に劣らずきまずそうだ。
佐伯さんは固まる私をチラリと見た後、小さなため息の後よっぴーさんに言った。
「吉村、悪いけどこのまま彼女を預かっていい?」
(……え?)
「あ、ああ。でも、このことは……」
「わかってる。誰にも言わないよ」
佐伯さんの答えを聞き、よっぴーさんはどこかほっとした表情で頷く。
そしてお札をテーブルに置くと、私に軽く笑みだけ残してお店を出て行った。
(ええ……どういうこと)
動揺を隠せずにいると、佐伯さんは改めて席を立って私を見る。
「せっかくだし、このまま誘っていい?」
「……どこへ行くんですか」
「俺の行きつけのバーがいいかなって思ってるんだけど」
こんな思わぬ流れで、私はまた佐伯さんと縁を持つことになってしまったのだった。