あなたの隣を独り占めしたい(続編まで完結)
***

 佐伯さんお勧めのバーに入り、私たちはカウンターに並んで座った。
 頼んだのはいつも飲んでいるシャンディガフ。カクテルほど甘くなくて、軽い感じで飲めるのが好きだ。
 それでも今はとても軽い気持ちにはなれそうにない。

「せっかくのデートを壊して悪かったね」
「いえ。でも、どうしてこんな展開に……」

(あのまま知らんふりしてくれてもよかったのに)

「色々言いたいことはあるけど」

 佐伯さんは一旦言葉を切り、ジントニックを口にしてから私を見た。

「とりあえず今後のために言っておくと、あいつ既婚だよ」
「え……」

(よっぴーさんが、既婚者??)

「さっき会った時、あいつ友人の悩み相談に乗るって言っていたけど、槙野が来たってことは違うよね」
「……」

 まさかの事実に、私は傾けかけていたグラスを戻す。
 マメに連絡をくれる人だと思っていたのに、浮気が目的でアプリを悪用している人だったなんて。

「ああ、それで……佐伯さんの知り合いの私じゃ、都合が悪くなったんですね」
「まあ、そうだろうな。俺もまさかあいつがそういうことしてるなんて知らなかったから」

(あのままよっぴーさんと会話してたら、大変な結果が待ってたかもしれないんだ)

 ここまでくると、自分でも“どうして?“としか思えない。
 見る目がないというレベルじゃない、『とことん男運がない』ということだろうか。

(いずれにしろ、今日はよっぴーさんとデートしなくてよかったのは間違いない)
「あはは……また助けられちゃいましたね」

 力なく笑うと、佐伯さんは困ったように首を振って前を向き直る。

「槙野とは離れられない縁でもあるのかと思ってしまうな」
「本当……ですね」

 変な話、ここ数ヶ月内で出会った男性の中で佐伯さんが一番まともというか、信頼できる人なのは確かだ。
 ワンナイトの帝王であっても、私を故意に傷つけるようなことをしない。
 むしろお節介なほどに助けてくれて、本気で心配をしてくれた。

(佐伯さんには迷惑な話だろうけど、ほんと……ありがたい)

 そんな風に思っていると、佐伯さんが思わぬ提案をしてきた。

「この前は半分勢いみたいな感じで言ったけど、本当に俺と付き合ってみない?」
「え……」
「正直、俺は槙野が期待してるだろう情熱みたいなのはない男だと思う。物足りないと思うかもしれない……でも、傷つけるようなことはしない自信はあるよ」

 冗談でもない表情で見つめられ、動揺ですぐに答えが言葉にならない。
 
(佐伯さんと……付き合う??)

 彼が望めば、どんな美人だって振り向かせることができるはずだ。
 私を誘う理由が全然わからない。
 こんな気持ちを読んだのか、彼は自分のことをぽつりぽつり語りだした。
< 17 / 50 >

この作品をシェア

pagetop