あなたの隣を独り占めしたい(続編まで完結)
次の日、目が覚めると本当に恭弥さんは私の部屋にいた。
朝一の便で来てくれたのか、スーツのジャケットを脱いだ姿でソファに横になっている。
「恭弥さん!」
夢じゃないのか確かめたくて、ベッドを降りた途端体に抱きつく。
すると、驚いたように目を開けて、彼は私を見下ろした。
「栞……おはよう」
優しく微笑むと、彼はそっと頭を撫でてくれた。
その手に自分の手を重ねてみる。
ゴツゴツとした男性らしい手は、確かに恭弥さんのものだった。
(本物だ)
夢じゃないのがわかって、私は安堵と嬉しさで、もう一度ぎゅっと体に抱きついた。
(誰にも渡したくない……恭弥さんの隣にずっといたい)
こんなにも誰かを失いたくないと思ったことがあっただろうか。
圭吾を失った時も辛かったけれど、あの時は自分を否定されたことへのショックの方が大きかったように思う。
能動的な愛だったかと問われると、違ったように思うのだ。
でも恭弥さんへの想いは違う。
猛烈な独占欲は確かにあるものの、それよりも大きく彼を信じたい気持ちがある。
そして、この世の誰よりも自分だけは彼を守っていきたいという不思議な想いもあった。
「私、あなたにどんな過去があったっていい。今のあなたがいい……だから、このままずっと私を愛してほしい」
涙ながらにそう訴えると、恭弥さんは体を起こして私を正面から抱きしめ直した。
「どうした、急に。怖い夢でも見た?」
背中を撫でながら、私が何かに怯えているようだと思ったみたいだ。
私は首を振りながら、ただただ彼の胸にしがみつく。
電話では伝わりきらなかった彼の香りが、胸いっぱいに満ちてくる。
(身も心も、もう私は恭弥さんじゃなくちゃ駄目なんだ)
「あなたの隣にいたい……」
(私の気持ちと同じくらい、あなたも私のことを離したくないんだって信じさせて)
背中に回した手でシャツを握っていると、彼はそっと体を離して私を見つめた。
幾度も見てきたと思っていたけれど、やっぱりこの人の顔は驚くほど整っていて直視できないほど魅力的だ。
そんな恭弥さんの二つの瞳が、私だけを映していた。
「ほんの少し離れただけで、こんなに不安になるのか……俺、まだ信用されてない?」
「そうじゃないです。でも、恭弥さんは誰から見ても魅力的だから……心配なのは確かです」
「それ、魅力的なんじゃなくて、単に女性に幻想を抱かせやすいってだけだと思うよ」
淡々とした声でそう答えた後、彼は目を軽く細めた。
「でも栞に嫉妬されるのは悪くないな。誰への嫉妬なのかわからないけど」
「嫉妬……じゃ、ないです」
(なんだろう、この熱い気持ち。私じゃないみたい……昨日の今日だから? 恭弥さんには不自然に映ってるかな)
私は急に恥ずかしくなって視線を外した。
すると、頬に手を添えられて顔を戻されてしまう。
「ちゃんと俺を見てて」
「ん……はい」
「俺は……結構情けないんだよ。栞に相応しくないんじゃないかって。内心この関係がちゃんと続くのか不安なところがあったから。だから本当は、さっきの栞の言葉がはすごく嬉しかった」
(相応しくない、だなんて)
恭弥さんがこんな風に思う理由がよくわからない。
過去の経験から傷を負ったのは理解しているけれど、まるっきりそこには恭弥さん自身が穢れるような要素はないと私は思っているのに。
「俺の隣はずっと空席だったし、これからもそうだろうと思ってた。でも……その席は今から栞のものだ」
「本当に?」
「一生を懸けて証明するよ。こんなセリフ、俺には一生縁のないものだと思ってたけど……栞は何か特別な存在なんだろうね」
嬉しい、愛おしい、幸せ、安心。
そんなあらゆる温かな想いが全身を駆け抜ける。
さっきまであった胸の痛みも、深い場所にあった異性への疑いも消えていった。
途端、私の中にも固い決意が芽生えた。
「私も一生を懸けて恭弥さんを愛します。私にとってもあなたは特別な人だから」
どこか自信のなかった私だけれど、この人とは対等に深い場所で繋がれる気がした。
どうして恭弥さんなのか?
フェロモン系のモテ男だと思って警戒していたのに。
(あんなに心を許すまいと思っていたのに……逆に強く惹かれることになっちゃったのは何がきっかけだったかな)
それは失恋から立ち直らせてくれたことかもしれないし、楽しいデートを教えてくれたことかもしれない。
あるいは、電話でも感覚を共有できる人だと感じたせいかもしれない。
(でも、もう理由はいらない)
「栞」
恭弥さんの手が私の顔をゆるりと持ち上げる。
「愛してる」
その言葉に甘く満たされた私の唇を、恭弥さんはゆっくり塞いだ――
朝一の便で来てくれたのか、スーツのジャケットを脱いだ姿でソファに横になっている。
「恭弥さん!」
夢じゃないのか確かめたくて、ベッドを降りた途端体に抱きつく。
すると、驚いたように目を開けて、彼は私を見下ろした。
「栞……おはよう」
優しく微笑むと、彼はそっと頭を撫でてくれた。
その手に自分の手を重ねてみる。
ゴツゴツとした男性らしい手は、確かに恭弥さんのものだった。
(本物だ)
夢じゃないのがわかって、私は安堵と嬉しさで、もう一度ぎゅっと体に抱きついた。
(誰にも渡したくない……恭弥さんの隣にずっといたい)
こんなにも誰かを失いたくないと思ったことがあっただろうか。
圭吾を失った時も辛かったけれど、あの時は自分を否定されたことへのショックの方が大きかったように思う。
能動的な愛だったかと問われると、違ったように思うのだ。
でも恭弥さんへの想いは違う。
猛烈な独占欲は確かにあるものの、それよりも大きく彼を信じたい気持ちがある。
そして、この世の誰よりも自分だけは彼を守っていきたいという不思議な想いもあった。
「私、あなたにどんな過去があったっていい。今のあなたがいい……だから、このままずっと私を愛してほしい」
涙ながらにそう訴えると、恭弥さんは体を起こして私を正面から抱きしめ直した。
「どうした、急に。怖い夢でも見た?」
背中を撫でながら、私が何かに怯えているようだと思ったみたいだ。
私は首を振りながら、ただただ彼の胸にしがみつく。
電話では伝わりきらなかった彼の香りが、胸いっぱいに満ちてくる。
(身も心も、もう私は恭弥さんじゃなくちゃ駄目なんだ)
「あなたの隣にいたい……」
(私の気持ちと同じくらい、あなたも私のことを離したくないんだって信じさせて)
背中に回した手でシャツを握っていると、彼はそっと体を離して私を見つめた。
幾度も見てきたと思っていたけれど、やっぱりこの人の顔は驚くほど整っていて直視できないほど魅力的だ。
そんな恭弥さんの二つの瞳が、私だけを映していた。
「ほんの少し離れただけで、こんなに不安になるのか……俺、まだ信用されてない?」
「そうじゃないです。でも、恭弥さんは誰から見ても魅力的だから……心配なのは確かです」
「それ、魅力的なんじゃなくて、単に女性に幻想を抱かせやすいってだけだと思うよ」
淡々とした声でそう答えた後、彼は目を軽く細めた。
「でも栞に嫉妬されるのは悪くないな。誰への嫉妬なのかわからないけど」
「嫉妬……じゃ、ないです」
(なんだろう、この熱い気持ち。私じゃないみたい……昨日の今日だから? 恭弥さんには不自然に映ってるかな)
私は急に恥ずかしくなって視線を外した。
すると、頬に手を添えられて顔を戻されてしまう。
「ちゃんと俺を見てて」
「ん……はい」
「俺は……結構情けないんだよ。栞に相応しくないんじゃないかって。内心この関係がちゃんと続くのか不安なところがあったから。だから本当は、さっきの栞の言葉がはすごく嬉しかった」
(相応しくない、だなんて)
恭弥さんがこんな風に思う理由がよくわからない。
過去の経験から傷を負ったのは理解しているけれど、まるっきりそこには恭弥さん自身が穢れるような要素はないと私は思っているのに。
「俺の隣はずっと空席だったし、これからもそうだろうと思ってた。でも……その席は今から栞のものだ」
「本当に?」
「一生を懸けて証明するよ。こんなセリフ、俺には一生縁のないものだと思ってたけど……栞は何か特別な存在なんだろうね」
嬉しい、愛おしい、幸せ、安心。
そんなあらゆる温かな想いが全身を駆け抜ける。
さっきまであった胸の痛みも、深い場所にあった異性への疑いも消えていった。
途端、私の中にも固い決意が芽生えた。
「私も一生を懸けて恭弥さんを愛します。私にとってもあなたは特別な人だから」
どこか自信のなかった私だけれど、この人とは対等に深い場所で繋がれる気がした。
どうして恭弥さんなのか?
フェロモン系のモテ男だと思って警戒していたのに。
(あんなに心を許すまいと思っていたのに……逆に強く惹かれることになっちゃったのは何がきっかけだったかな)
それは失恋から立ち直らせてくれたことかもしれないし、楽しいデートを教えてくれたことかもしれない。
あるいは、電話でも感覚を共有できる人だと感じたせいかもしれない。
(でも、もう理由はいらない)
「栞」
恭弥さんの手が私の顔をゆるりと持ち上げる。
「愛してる」
その言葉に甘く満たされた私の唇を、恭弥さんはゆっくり塞いだ――