あなたの隣を独り占めしたい(続編まで完結)
 絹さんとの挨拶を終えた私たちは、綺麗に掃除された客間を貸していただくことになった。
 和風の部屋だけれど、ベッドが設置されていて全体にモダンな作りになっている。

「素敵なお部屋ですね」
「一応この旅館で人気のある部屋だから。ゆっくりくつろぐといいよ」
「わ、嬉しい」

 ぽふんとベッドに座ると、旅の疲れがふっと襲ってくる。
 眠ってしまいたい衝動に駆られたけれど、慌てて首を振った。

(いけない、まだ気を抜くには早すぎるよ。お母様のお見舞いもあるし、他のスタッフさんへの挨拶もあるし)

「栞」

 私の隣に座り、恭弥さんは癒すようにゆったり私を抱きしめた。
 ずっと緊張していたのを知っているみたいで、肩の力が抜けるように背中をさすってくれる。

(この仕草……安心する)

「もう緊張は必要ないから。絹さんに気に入られたなら、おふくろだってきっと気に入る」
「そうでしょうか」
「もちろん。他のスタッフは絹さんに頭が上がらないはずだし。だからもう心配しなくていいよ」

 冗談めかしてそう言った時、二重になっている奥のドアがノックされた。
 誰かが挨拶に来たみたいだ。

「誰だろう……はい。今出ます」

 恭弥さんは仕方ない様子で返事をし、ベッドから立ち上がってドアの前まで進み出る。
 そして、ドアを開けた瞬間動きが固まった。

(恭弥さん?)

 心配になって私も側へ寄ると、そこにはきちんと着物を着付けた妙齢の女性が立っていた。
 その人の持つ独特のオーラに、ドクンと心臓が嫌な音を立てる。

(まさか、この人……)
「香苗さん」
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