あなたの隣を独り占めしたい(続編まで完結)
 一旦布団に入ったもののうまく寝付けず、私はざわざわする気持ちを落ち着けようと部屋に電気はつけずに窓際に用意された椅子にもたれかかった。
 ギッとスプリングが軋む音がしてハッと恭弥さんの方を見る。
 彼は目を閉じたままで、ほっと胸を撫で下ろした。

(強がってみたけれど、やっぱり気にならないわけじゃないんだな)

 自分が思っているより佳苗さんの姿を見てしまったショックは大きかったようで、私は自分が恭弥さんが言ってくれたほど強くなんかないことにガッカリした。
 ふうとため息が漏れたその時、寝床からくぐもった声が聞こえた。

「栞、いつ布団から出た?」
「あ……」

 視線を向けると、さっき閉じていた目を開けて恭弥さんがこちらを見ていた。

「起こしちゃいましたね。すみません」
「また意味不明に謝ってる」

 くすっと笑うと、彼は布団を広げて私に入るよう促す。
 別々の布団に寝ていたのに、急に入るよう言われるとちょっと照れてしまう。

「ここ、ご実家ですよ?」
「流石に声が出るようなことはしないよ」

 またくすくす笑って、彼は近づいた私の手を引いて懐に抱き寄せた。
 ふんわり石鹸の香りが漂って、体温に混じって私を心地よく包む。

(ああ、好きだな。私……どんなに強力なライバルが出てきたって、この人のことだけは諦めたりできない)

 ぎゅっと力一杯抱きつくと、彼も負けないくらいの強い力で抱きしめ返してくれた。
 そして髪や頬に優しく何度もキスをしてくれながら囁く。

「愛してる。栞……俺にはお前だけだから」
「……はい」
「だから何があっても俺のことだけ考えてて」
「恭弥さんがそう言ってくれるから、私も強くなれるんです」
「それなら何度だって言うし。いずれ言わなくたって当たり前に信じられるようにする」
「うん、はい。そうなるといいな」
「なるよ」

 最後に唇への甘く静かなキスをされると、心の中は安堵でいっぱいになる。

(恭弥さんと私は大丈夫。きっと……大丈夫)

 ざわめいていた心がようやく落ち着き、私は恭弥さんの心音を聞きながらゆっくり目を閉じた。
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