あなたの隣を独り占めしたい(続編まで完結)
3.対面(SIDE 栞)
翌日は恭弥さんのお母様のお見舞いに行くことになっていて、私たちは早々に朝食をいただいて病院へと向かった。
「お母様の体調、いいといいですね」
そう声をかけると、恭弥さんはうんと頷いて私を見る。
「母は多分、栞のことはすぐに気に入ると思うけど。万が一少しでも不安なことがあったら言って」
「はい。ありがとうございます」
握ってくれている手に力が込められ、恭弥さんに守られている感覚が強くなる。
(このまま病院に行って、そのまま帰ってしまいたいな)
こんな本音を抱いている私だ。
昨夜は恭弥さんのおかげで穏やかに眠れたけれど、やっぱり佳苗さんがいると思うと旅館の廊下を歩くだけでドキドキしてしまっていた。
(あんなに信じさせてもらってるのに、まだこんな気持ちなるなんて)
恭弥さんが館内で私が佳苗さんに会わなくて済むよう気を回してくれているのは知っている。
それは素直に嬉しいけれど、その気を回している最中に恭弥さんが彼女に会ってやしないかと私はそれだけが気がかりだ。
佳苗さんにライバル心を持っても仕方ないことだ。
そう思って過去のことは気にしないようにしてきたけれど。
これから先、リアルタイムで佳苗さんが関わるようなことになったら、やっぱり嫌だなと思う気持ちは否めない。
(恭弥さんがあの人に心を動かすとは思ってないけれど)
思っていないけれど、どうしてもざわめいてしまうのはどうしてだろう。
嫉妬というのは厄介だと思う。
モテる人を夫にするのだから、これから先も彼に想いを寄せる人は出てくるだろう。
そういうのも覚悟して、私は恭弥さんと一緒に生きることを決めたつもりだ。
でも、佳苗さんと直に会うことで、自分の覚悟がまだ甘かったことを思い知っている。
(今の私の心を恭弥さんに見られたくないな)
タロットカードを引いたら、きっとデビルのカードが出てしまうような気持ちなのだ。
私でも見たくない自分の本音の気持ち。
好きな人を奪われたくない。
好きな人が1秒でも他の女性に目を奪われて欲しくない。
思考は24時間、全て私のことで満たしていてほしい。
こんなふうに誰かへの強い独占欲を抱いたのは生まれて初めてで、戸惑う。
そして、こんな思いを長く抱くのはやめたいと心底思う。
恭弥さんを信頼してる。
それは間違いのない気持ちなのに、佳苗さんの顔を思い出すと胸がぎゅっと痛くなる。
(私の恭弥さんに近づかないで。彼はもうあなたとは関わらないのだから)
黒い気持ちが止まらなくなりそうで、私は思わず恭弥さんに握られていた手を離した。
すると彼は驚いて足を止める。
「どうした?」
「あ、いえ……ちょっと歩きづらかったので」
「……手を握って歩くの、嫌だった?」
「そういうんじゃないです」
(いけない。彼が悪いわけじゃないのに、優しい言葉にならない)
私が無言になると、恭弥さんはふっと息を吐いて私の頭をそっと撫でてくれた。
「緊張しすぎ。栞はいつも通り、栞らしくいてくれたらいいから」
「そのつもりなんですけど」
(何が変なのかもわからないよ)
すると恭弥さんは笑って「そういうところが栞らしくて可愛いけど」なんてボソリと呟いた。
「せっかく楽しみにしてた連休がこんなになってごめん。東京に戻ったら、別の日に連休作って必ず二人きりで旅行に行こう」
「ん、ありがとうございます」
私の心をどこまで察して言ってくれたのかはわからない。
でも、少なくとも恭弥さんはいつだって私を安心させてくれようとしている。
それがわかるから、自分が今こんな気持ちになっているのが申し訳ないと思ってしまう。
(早くこの気持ちを手放してしまえるといいな……)
「お母様の体調、いいといいですね」
そう声をかけると、恭弥さんはうんと頷いて私を見る。
「母は多分、栞のことはすぐに気に入ると思うけど。万が一少しでも不安なことがあったら言って」
「はい。ありがとうございます」
握ってくれている手に力が込められ、恭弥さんに守られている感覚が強くなる。
(このまま病院に行って、そのまま帰ってしまいたいな)
こんな本音を抱いている私だ。
昨夜は恭弥さんのおかげで穏やかに眠れたけれど、やっぱり佳苗さんがいると思うと旅館の廊下を歩くだけでドキドキしてしまっていた。
(あんなに信じさせてもらってるのに、まだこんな気持ちなるなんて)
恭弥さんが館内で私が佳苗さんに会わなくて済むよう気を回してくれているのは知っている。
それは素直に嬉しいけれど、その気を回している最中に恭弥さんが彼女に会ってやしないかと私はそれだけが気がかりだ。
佳苗さんにライバル心を持っても仕方ないことだ。
そう思って過去のことは気にしないようにしてきたけれど。
これから先、リアルタイムで佳苗さんが関わるようなことになったら、やっぱり嫌だなと思う気持ちは否めない。
(恭弥さんがあの人に心を動かすとは思ってないけれど)
思っていないけれど、どうしてもざわめいてしまうのはどうしてだろう。
嫉妬というのは厄介だと思う。
モテる人を夫にするのだから、これから先も彼に想いを寄せる人は出てくるだろう。
そういうのも覚悟して、私は恭弥さんと一緒に生きることを決めたつもりだ。
でも、佳苗さんと直に会うことで、自分の覚悟がまだ甘かったことを思い知っている。
(今の私の心を恭弥さんに見られたくないな)
タロットカードを引いたら、きっとデビルのカードが出てしまうような気持ちなのだ。
私でも見たくない自分の本音の気持ち。
好きな人を奪われたくない。
好きな人が1秒でも他の女性に目を奪われて欲しくない。
思考は24時間、全て私のことで満たしていてほしい。
こんなふうに誰かへの強い独占欲を抱いたのは生まれて初めてで、戸惑う。
そして、こんな思いを長く抱くのはやめたいと心底思う。
恭弥さんを信頼してる。
それは間違いのない気持ちなのに、佳苗さんの顔を思い出すと胸がぎゅっと痛くなる。
(私の恭弥さんに近づかないで。彼はもうあなたとは関わらないのだから)
黒い気持ちが止まらなくなりそうで、私は思わず恭弥さんに握られていた手を離した。
すると彼は驚いて足を止める。
「どうした?」
「あ、いえ……ちょっと歩きづらかったので」
「……手を握って歩くの、嫌だった?」
「そういうんじゃないです」
(いけない。彼が悪いわけじゃないのに、優しい言葉にならない)
私が無言になると、恭弥さんはふっと息を吐いて私の頭をそっと撫でてくれた。
「緊張しすぎ。栞はいつも通り、栞らしくいてくれたらいいから」
「そのつもりなんですけど」
(何が変なのかもわからないよ)
すると恭弥さんは笑って「そういうところが栞らしくて可愛いけど」なんてボソリと呟いた。
「せっかく楽しみにしてた連休がこんなになってごめん。東京に戻ったら、別の日に連休作って必ず二人きりで旅行に行こう」
「ん、ありがとうございます」
私の心をどこまで察して言ってくれたのかはわからない。
でも、少なくとも恭弥さんはいつだって私を安心させてくれようとしている。
それがわかるから、自分が今こんな気持ちになっているのが申し訳ないと思ってしまう。
(早くこの気持ちを手放してしまえるといいな……)