あなたの隣を独り占めしたい(続編まで完結)
恭弥さんのお母様は色白のとても美しい方だった。
年齢はお聞きしていたけれど、まだ少女のような可憐な雰囲気をたたえた感じで、ご年齢よりかなり若く見えた。
ただ、体調はかなり悪いのか、ベッドからは起き上がれない状態のようだった。
「ごめんなさいね、こんな体勢で」
個室である病室に入るなり、お母様は恭弥さんでなく私に視線を向けてそう言った。
「とんでもないです。ご無理なさらないでください」
「ありがとう」
そう言って、お母様は優しげに笑った。
顔の造りは違うけれど、目元の優しさは恭弥さんに似ていると感じた。
(素敵な方だな)
「恭弥の選んだ方ね?」
「は、はじめまして。槙野栞です」
「恭弥から聞いていたわ。よく来てくれたわね、栞さん」
私たちがゆったり会話するのを隣で見ていた恭弥さんは、安心したように私の手を離した。
離れてから初めて、自分がお母様の前で手を繋いでいたことに気づく。
(やだ。見えてたらどうしよう)
恥ずかしく思ったけれど、お母様はそのことについては何も言わなかった。
静かに微笑むと、恭弥さんの方を見た。
途端、優しげな表情が少し真剣なものに変わる。
「恭弥も流石にお母さんがこんなだと、帰ってきてくれるのね」
「そう言われると気まずいんだけど。帰りづらい環境にしてるのはおふくろの方だろ」
いつになく棘のある言葉だけれど、恭弥さんの声に怒気はなかった。
やっぱり弱っているお母様を見て胸が痛んでいるのだろう。
「旅館も人が減ったでしょう」
「そうだね。なんで今の状態になってるのか色々聞きたいけど、体に触るだろうから……」
「いいえ」
遠慮しようとする恭弥さんの言葉を遮った。
「全部あなたに話しておきたいと思っていたから、このまま話させてちょうだい」
強めにそう告げると、私に目を移して恭弥さんだけに話したい内容だと言った。
私は親子だけの話なのだと察し、すぐに頷いた。
「じゃあ、私外に出てます」
「栞、ロビーにいて。話が終わったらすぐ行く」
「はい。ではお母様、一旦失礼しますね」
「ええ。会いにきてくれてありがとう。恭弥をよろしく頼むわね」
私が頭を下げるのと同時に、お母様はそう言って私を見送ってくれた。
まるでお会いするのはこれが最後とでもいうように。
年齢はお聞きしていたけれど、まだ少女のような可憐な雰囲気をたたえた感じで、ご年齢よりかなり若く見えた。
ただ、体調はかなり悪いのか、ベッドからは起き上がれない状態のようだった。
「ごめんなさいね、こんな体勢で」
個室である病室に入るなり、お母様は恭弥さんでなく私に視線を向けてそう言った。
「とんでもないです。ご無理なさらないでください」
「ありがとう」
そう言って、お母様は優しげに笑った。
顔の造りは違うけれど、目元の優しさは恭弥さんに似ていると感じた。
(素敵な方だな)
「恭弥の選んだ方ね?」
「は、はじめまして。槙野栞です」
「恭弥から聞いていたわ。よく来てくれたわね、栞さん」
私たちがゆったり会話するのを隣で見ていた恭弥さんは、安心したように私の手を離した。
離れてから初めて、自分がお母様の前で手を繋いでいたことに気づく。
(やだ。見えてたらどうしよう)
恥ずかしく思ったけれど、お母様はそのことについては何も言わなかった。
静かに微笑むと、恭弥さんの方を見た。
途端、優しげな表情が少し真剣なものに変わる。
「恭弥も流石にお母さんがこんなだと、帰ってきてくれるのね」
「そう言われると気まずいんだけど。帰りづらい環境にしてるのはおふくろの方だろ」
いつになく棘のある言葉だけれど、恭弥さんの声に怒気はなかった。
やっぱり弱っているお母様を見て胸が痛んでいるのだろう。
「旅館も人が減ったでしょう」
「そうだね。なんで今の状態になってるのか色々聞きたいけど、体に触るだろうから……」
「いいえ」
遠慮しようとする恭弥さんの言葉を遮った。
「全部あなたに話しておきたいと思っていたから、このまま話させてちょうだい」
強めにそう告げると、私に目を移して恭弥さんだけに話したい内容だと言った。
私は親子だけの話なのだと察し、すぐに頷いた。
「じゃあ、私外に出てます」
「栞、ロビーにいて。話が終わったらすぐ行く」
「はい。ではお母様、一旦失礼しますね」
「ええ。会いにきてくれてありがとう。恭弥をよろしく頼むわね」
私が頭を下げるのと同時に、お母様はそう言って私を見送ってくれた。
まるでお会いするのはこれが最後とでもいうように。