あなたの隣を独り占めしたい(続編まで完結)
驚いて見上げる私を、余裕の笑みで見下ろす佐伯さんはもう私の知っている彼じゃない。
匂い立つような色香……これがフェロモンというものなのだろう。
(佐伯さん……33歳だったっけ……経験値の高い男性のフェロモンてこんなに強いの? 麻酔みたい……とても逃げられない)
「まるで”まな板の鯉”だな」
私がじっと動けずに佐伯さんの顔を見上げているから、彼はたまらず笑い出す。
(……っ)
「槙野ってほんと、素直だね」
「か、からかってるなら帰ります!」
恥ずかしさに居た堪れなくなり、私はどうにか体を起こしてベッドを出ようとするけれど、佐伯さんの手で肩をシーツに押し付けられた。
「心配しなくていい。槙野は、俺の目には十分女性として映ってるよ」
「……それ、慰めですよね」
「慰めで抱くほど俺もお人好しじゃない」
淡い笑みを浮かべた佐伯さんの顔が降りてきて、ソフトなキスが額や鼻先に落とされる。
「ん……」
柔らかな温もりが置かれるたびに胸が解放され、割れそうに痛かった頭痛が徐々に和らいでいった。
(何、この癒される感じ)
うっとりとする私の耳元で、佐伯さんが低い声で囁いた。
「一つだけ約束して」
「約束……?」
「そう。今夜のことは忘れること。じゃないと明日から仕事しにくくなくなる」
優しげだけれどどこか抵抗できなくさせるその声音に、一瞬戸惑う。
でも、この甘い空気から逃れることもできないのだとも思った。
(この人……やっぱりすごく女性慣れしてる)
「……わかりました。忘れます」
ワンナイトの帝王という噂は嘘じゃないのかもしれない。
それでもいい、この時私はそう納得していた。
「ありがとう。じゃ、今夜は君を目いっぱい心地よくしてあげる」
「え……ぁ……っ」
肌に潜り込んできた佐伯さんの指が、そっと撫でるようにして脇腹を這い上ってくる。
彼の手は大きくて熱くて、とても心地いい。
「……や……ぁ」
(こんなの、拒める人いないでしょ)
「気持ちいい?」
「はい……すごく」
一夜限りという約束が逆に私を大胆にし、たまらず佐伯さんの背中にしがみつく。
すると彼も背に回した手で私を抱き寄せ、まるで本当の恋人のように優しく頬を擦り寄せた。
「君はあったかいな」
「はい……佐伯さんも」
静かに答えると、彼はわずかに頭をもたげて不満げな顔をする。
「苗字だとまだ会社にいる気分になるな。下の名前で呼んで」
「下? え……っと、なんでしたっけ」
「恭弥」
(そういえば、そういう名前だったっけ)
急に身近に感じる佐伯さんの名をすぐには口にできずにいると、彼はけしかけるように耳元に唇を寄せる。
「呼んでみて。俺も今夜だけ栞って呼ぶから」
「ええと……きょ、恭弥……さん?」
戸惑いながら口にしてみると、と彼は満足げに微笑んだ。
「栞から名前呼ばれるの、悪くないな」
(私の名前を圭吾以外の男性が呼んでる……すごく不思議)
ぼうっとしていると、恭弥さんの手がさらに上ってきて私の胸を捉える。
四つん這いで私の上に覆い被さると、髪をそっと撫でた。
「綺麗な髪だ。シャンプーのいい香りもする」
髪にキスされるなんてなかったから、間接的に伝わる刺激に指の先まで細かい痺れが走る。
「栞は肌も綺麗だから、触れてる方も心地いいよ」
スウェットの裾から手を差し入れられ、恭弥さんの大きくしなやかな手が私の腹を撫でた。
圭吾にしか触れられたことのない場所を弄られ、急に表現できないような羞恥心が襲う。
(考えてみたら、佐伯さんは私の上司で。明日も会社で会う人なのに)
今更戻った理性に心臓が破裂しそうなほどドキドキしてくる。
「わ、私……やっぱり……んっ」
言葉を飲み込むように深くキスされ、そのまま指を絡めながら両手をシーツに押し付けられる。
「口、開けて」
「……」
そろりと唇を開くと、再びキスが重ねられ、湿った舌先が口内に侵入してきた。
「ぁ……」
躊躇いもなく私の舌を捕らえると、くるくると撫でるように絡めとっていく。
信じられないほどの魅惑的な刺激に、わずかに戻っていた理性も再び消えてしまった。
(もう何も考えられない)
恭弥さんのキスはすごく官能的で、夢中にならないではいられない。
幾度も角度を変えてキスされるうち、私は無意識に彼の頬を掬うように両手で抱えていた。
「……こういうキス、はじめて?」
「ん……は、い」
「じゃ、キスだけずっとしてようか」
ふっと余裕の瞳を細めると、恭弥さんは身を乗り出して私の唇を奪い続けた。
舌先と唇だけの触れ合いだったのに、私は裸で抱き合うよりずっと心地いいと思っていた。
(どうしよう、もっと触れて欲しくて仕方ない)
キスを受けながら身をよじると、恭弥さんが唇を離して意地悪く笑う。
「欲しいんだ」
「ち、ちが……」
「違うわけない」
「っ、や……っ」
スカートをたくし上げられると、膝の隙間からすっと腕が差し入れられる。彼の指が届いた私の秘部は、言葉通りしっとり濡れているのが自分でもわかった。
「これ以上前戯要らないくらい濡れてる」
「い、言わないでください。恥ずかしい……」
「恥ずかしくないよ。俺だってこんななんだから」
そう言って恭弥さんは私の手をとってズボンの上から硬くなったものに触れさせた。
「……っ」
(反応してくれてる)
恥ずかしいという気持ちもあったけれど、自分にちゃんと欲情してくれているのが分かったのは素直に嬉しかった。
「でも、今夜は栞を心地よくしてあげる約束だし。俺は我慢するよ」
「えっ、どういう意味……」
言葉を言い終わる前に、するりとショーツが脱がされてしまう。
すっと濡れた場所に風を感じるや否や、恭弥さんの指がゆっくり中に入ってきた。
「っ!」
驚きで背を跳ねさせると、なだめるように再び深いキスが落ちてくる。
唇の重なりと内側の弄りに、思考がすっかり止まってしまった。
心地いいという感覚だけが全身を支配し、私を見つめる恭弥さんの瞳をひたすらに優しく感じる。
(この人は……私が独り占めできるような人じゃない。今、触れてもらえてるのがただ嬉しい)
こんな不思議な感情を抱きながら、私は一晩だけの優しい恋人を持った気分で素直にその快感に溺れた。
そのうち、波だっていた快感が私の内側に大きく押し寄せてくる。
「っ、恭弥さ……私……」
「うん。そのままイっていいよ」
その言葉の直後、私は恥ずかしい声をあげながら体を震わせた。
「……っ……はぁ」
心地良さと安堵と嬉しさ。
全てのポジティブな感覚に満たされながら、私は恭弥さんにしがみついた。
彼はその体を抱きしめながら、嬉しそうに頬にキスしてくれる。
「よかった?」
「ん……でも、私ばっかり……」
「別に最後までしなくたって俺はこうしてるだけで満たされるけどな」
くたりと力が抜けた私を抱きしめ、佐伯さんはまだ丁寧に鼻先や瞼にキスしてくれている。
「これからは、こうして君を先に悦ばせてくれる男を選ぶんだ」
「……はい」
(でも、こんな抱き方をしてくれる男性……他にいるんですか?)
すっかり脱力してしまった私は、その質問を口にできないまま意識を手放した。
匂い立つような色香……これがフェロモンというものなのだろう。
(佐伯さん……33歳だったっけ……経験値の高い男性のフェロモンてこんなに強いの? 麻酔みたい……とても逃げられない)
「まるで”まな板の鯉”だな」
私がじっと動けずに佐伯さんの顔を見上げているから、彼はたまらず笑い出す。
(……っ)
「槙野ってほんと、素直だね」
「か、からかってるなら帰ります!」
恥ずかしさに居た堪れなくなり、私はどうにか体を起こしてベッドを出ようとするけれど、佐伯さんの手で肩をシーツに押し付けられた。
「心配しなくていい。槙野は、俺の目には十分女性として映ってるよ」
「……それ、慰めですよね」
「慰めで抱くほど俺もお人好しじゃない」
淡い笑みを浮かべた佐伯さんの顔が降りてきて、ソフトなキスが額や鼻先に落とされる。
「ん……」
柔らかな温もりが置かれるたびに胸が解放され、割れそうに痛かった頭痛が徐々に和らいでいった。
(何、この癒される感じ)
うっとりとする私の耳元で、佐伯さんが低い声で囁いた。
「一つだけ約束して」
「約束……?」
「そう。今夜のことは忘れること。じゃないと明日から仕事しにくくなくなる」
優しげだけれどどこか抵抗できなくさせるその声音に、一瞬戸惑う。
でも、この甘い空気から逃れることもできないのだとも思った。
(この人……やっぱりすごく女性慣れしてる)
「……わかりました。忘れます」
ワンナイトの帝王という噂は嘘じゃないのかもしれない。
それでもいい、この時私はそう納得していた。
「ありがとう。じゃ、今夜は君を目いっぱい心地よくしてあげる」
「え……ぁ……っ」
肌に潜り込んできた佐伯さんの指が、そっと撫でるようにして脇腹を這い上ってくる。
彼の手は大きくて熱くて、とても心地いい。
「……や……ぁ」
(こんなの、拒める人いないでしょ)
「気持ちいい?」
「はい……すごく」
一夜限りという約束が逆に私を大胆にし、たまらず佐伯さんの背中にしがみつく。
すると彼も背に回した手で私を抱き寄せ、まるで本当の恋人のように優しく頬を擦り寄せた。
「君はあったかいな」
「はい……佐伯さんも」
静かに答えると、彼はわずかに頭をもたげて不満げな顔をする。
「苗字だとまだ会社にいる気分になるな。下の名前で呼んで」
「下? え……っと、なんでしたっけ」
「恭弥」
(そういえば、そういう名前だったっけ)
急に身近に感じる佐伯さんの名をすぐには口にできずにいると、彼はけしかけるように耳元に唇を寄せる。
「呼んでみて。俺も今夜だけ栞って呼ぶから」
「ええと……きょ、恭弥……さん?」
戸惑いながら口にしてみると、と彼は満足げに微笑んだ。
「栞から名前呼ばれるの、悪くないな」
(私の名前を圭吾以外の男性が呼んでる……すごく不思議)
ぼうっとしていると、恭弥さんの手がさらに上ってきて私の胸を捉える。
四つん這いで私の上に覆い被さると、髪をそっと撫でた。
「綺麗な髪だ。シャンプーのいい香りもする」
髪にキスされるなんてなかったから、間接的に伝わる刺激に指の先まで細かい痺れが走る。
「栞は肌も綺麗だから、触れてる方も心地いいよ」
スウェットの裾から手を差し入れられ、恭弥さんの大きくしなやかな手が私の腹を撫でた。
圭吾にしか触れられたことのない場所を弄られ、急に表現できないような羞恥心が襲う。
(考えてみたら、佐伯さんは私の上司で。明日も会社で会う人なのに)
今更戻った理性に心臓が破裂しそうなほどドキドキしてくる。
「わ、私……やっぱり……んっ」
言葉を飲み込むように深くキスされ、そのまま指を絡めながら両手をシーツに押し付けられる。
「口、開けて」
「……」
そろりと唇を開くと、再びキスが重ねられ、湿った舌先が口内に侵入してきた。
「ぁ……」
躊躇いもなく私の舌を捕らえると、くるくると撫でるように絡めとっていく。
信じられないほどの魅惑的な刺激に、わずかに戻っていた理性も再び消えてしまった。
(もう何も考えられない)
恭弥さんのキスはすごく官能的で、夢中にならないではいられない。
幾度も角度を変えてキスされるうち、私は無意識に彼の頬を掬うように両手で抱えていた。
「……こういうキス、はじめて?」
「ん……は、い」
「じゃ、キスだけずっとしてようか」
ふっと余裕の瞳を細めると、恭弥さんは身を乗り出して私の唇を奪い続けた。
舌先と唇だけの触れ合いだったのに、私は裸で抱き合うよりずっと心地いいと思っていた。
(どうしよう、もっと触れて欲しくて仕方ない)
キスを受けながら身をよじると、恭弥さんが唇を離して意地悪く笑う。
「欲しいんだ」
「ち、ちが……」
「違うわけない」
「っ、や……っ」
スカートをたくし上げられると、膝の隙間からすっと腕が差し入れられる。彼の指が届いた私の秘部は、言葉通りしっとり濡れているのが自分でもわかった。
「これ以上前戯要らないくらい濡れてる」
「い、言わないでください。恥ずかしい……」
「恥ずかしくないよ。俺だってこんななんだから」
そう言って恭弥さんは私の手をとってズボンの上から硬くなったものに触れさせた。
「……っ」
(反応してくれてる)
恥ずかしいという気持ちもあったけれど、自分にちゃんと欲情してくれているのが分かったのは素直に嬉しかった。
「でも、今夜は栞を心地よくしてあげる約束だし。俺は我慢するよ」
「えっ、どういう意味……」
言葉を言い終わる前に、するりとショーツが脱がされてしまう。
すっと濡れた場所に風を感じるや否や、恭弥さんの指がゆっくり中に入ってきた。
「っ!」
驚きで背を跳ねさせると、なだめるように再び深いキスが落ちてくる。
唇の重なりと内側の弄りに、思考がすっかり止まってしまった。
心地いいという感覚だけが全身を支配し、私を見つめる恭弥さんの瞳をひたすらに優しく感じる。
(この人は……私が独り占めできるような人じゃない。今、触れてもらえてるのがただ嬉しい)
こんな不思議な感情を抱きながら、私は一晩だけの優しい恋人を持った気分で素直にその快感に溺れた。
そのうち、波だっていた快感が私の内側に大きく押し寄せてくる。
「っ、恭弥さ……私……」
「うん。そのままイっていいよ」
その言葉の直後、私は恥ずかしい声をあげながら体を震わせた。
「……っ……はぁ」
心地良さと安堵と嬉しさ。
全てのポジティブな感覚に満たされながら、私は恭弥さんにしがみついた。
彼はその体を抱きしめながら、嬉しそうに頬にキスしてくれる。
「よかった?」
「ん……でも、私ばっかり……」
「別に最後までしなくたって俺はこうしてるだけで満たされるけどな」
くたりと力が抜けた私を抱きしめ、佐伯さんはまだ丁寧に鼻先や瞼にキスしてくれている。
「これからは、こうして君を先に悦ばせてくれる男を選ぶんだ」
「……はい」
(でも、こんな抱き方をしてくれる男性……他にいるんですか?)
すっかり脱力してしまった私は、その質問を口にできないまま意識を手放した。