極上御曹司は懐妊秘書を娶りたい
「……はい。これから産休に入るまでの間に少しずつ、今まで通りの仕事をするのが難しくなってくると思うんです。社長にご迷惑をおかけするわけにはいきませんから」
 うちの会社では期間の問題から、基本的にお腹がある程度大きくなってから産休を取得するのが普通だ。それまでの間に、秘書として彼について公の場に出なければならない場面も出てくるだろう。そのときに秘書のお腹が大きくなっているというのは、いらない憶測を招く要因にもなる。
 そうしたことを言い募れば、城阪社長は眉をしかめながら小さく呟いた。
「……納得はしていないが、君の考えは理解した」
「じゃあ……」
「だが、もし一人で育てるのなら金も入り用になるだろう。……どうしても秘書を辞めたいというのなら、別の仕事はどうだ」
「別の仕事ですか? でも、会社でお世話になるなら、やっぱり体調面でご迷惑をおかけしてしまうと思うのですが……」
「いや、俺が個人的に雇いたい」
 個人的に雇うって、どういうこと。
 思いもよらない言葉に、私の首が横へと緩く傾ぐ。この話がどこに転がるかすらも予想がつかなくて、それ以上の反応がどうにも返しづらい。
 困惑を露わにする私を余所に、城阪社長は話を続けた。
「確か麻田は、自分で毎日弁当を作ってきていただろう」
「はい。料理は割と好きなので……」
「俺は料理ができないんだが……ここ数年外食ばかりで、少し飽きと不安が出てきてな」
「はあ……」
 ここまで話してもらっても、ぴんとこない。間の抜けた曖昧な相槌でそれを察したのか、彼はついに本題に切り込んだ。
「君にうちで料理を作ってほしい。いわゆるハウスキーパーのような業務を頼みたいんだ」
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