極上御曹司は懐妊秘書を娶りたい
「はあ……」
両手で頬を揉んで、大きく溜息をつく。未だに健気に早鐘を打ち続ける私の心臓は、
クレンジングやスキンケア用の化粧品は、私が夕食を温め直している間に、景光さんがマンションの一階に入っているコンビニで買い揃えてきてくれていた。
そういえば、着替えも用意してくれてたんだっけ。自宅より何倍も綺麗で広い洗面所を見回すと、洗濯機の上にTシャツとスウェットが畳んで置かれていた。どちらもすっきりとしたデザインだけど、明らかに男物だ。
「これ、景光さんの……」
お風呂から上がったら、これを着るのか。
そう思った瞬間に再び心臓がどっと音を立てたので、私は慌てて着替えから視線を逸らす、――――洗濯籠の中に放り込まれた、菫色のハンカチが目に留まった。
「あ……」
三度心臓が音を立てる。でも、今度は少し嫌な跳ね方だった。
モノトーンカラーで統一された洗面所の中で、ひどく眩しく見える菫色。綺麗な花の柄が刺繍された、品も質も良い綺麗なハンカチ。私はこのハンカチに見覚えがあった。これで手を拭いながら『色が気に入ってるの』と微笑む、――――恵美子さんの顔を、よく覚えている。
幸せと痛いぐらいのときめきで満たされていた胸に、針が刺さる。針はそのまま胸に小さな穴を開け、膨らんでいたなにがしかの感情をしぼませていった。
今日、雨で濡れたときにでも借りたのだろうか。目を閉じれば、スーツの肩を濡らしてしまった景光さんに恵美子さんがハンカチを差し出し、微笑み合う光景が瞼の裏に浮かぶ。同時に湧き上がってきたのは、じくじくと心臓の裏側が炙られるような、そんな感覚だった。
「……っ、」
これは、嫉妬だ。
なんで、という呟きが零れ落ちて菫色のハンカチに吸い込まれていく。今まで景光さんと恵美子さんの仲に嫉妬したことなんてなかったのに、――――どうして今更、嫉妬なんか。
「……諦められてると、思ったのに」
彼を仕事として支えられる立場があればいい。想いを向けてもらえなくても構わない。ずっとそう思ってきたはずなのに、この数ヶ月で私は彼の温度や情を知ってしまった。優しくされて、大切にされて、この時間が永遠に続けばいいと心の奥で願ってしまった。この子が、景光さんに望まれた子ならいいのにと、思ってしまったのだ。
「どうしようね……」
お腹に両手を宛がって、そう語り掛けてみる。
どうしようもないことは、私が一番分かっているのにね。
両手で頬を揉んで、大きく溜息をつく。未だに健気に早鐘を打ち続ける私の心臓は、
クレンジングやスキンケア用の化粧品は、私が夕食を温め直している間に、景光さんがマンションの一階に入っているコンビニで買い揃えてきてくれていた。
そういえば、着替えも用意してくれてたんだっけ。自宅より何倍も綺麗で広い洗面所を見回すと、洗濯機の上にTシャツとスウェットが畳んで置かれていた。どちらもすっきりとしたデザインだけど、明らかに男物だ。
「これ、景光さんの……」
お風呂から上がったら、これを着るのか。
そう思った瞬間に再び心臓がどっと音を立てたので、私は慌てて着替えから視線を逸らす、――――洗濯籠の中に放り込まれた、菫色のハンカチが目に留まった。
「あ……」
三度心臓が音を立てる。でも、今度は少し嫌な跳ね方だった。
モノトーンカラーで統一された洗面所の中で、ひどく眩しく見える菫色。綺麗な花の柄が刺繍された、品も質も良い綺麗なハンカチ。私はこのハンカチに見覚えがあった。これで手を拭いながら『色が気に入ってるの』と微笑む、――――恵美子さんの顔を、よく覚えている。
幸せと痛いぐらいのときめきで満たされていた胸に、針が刺さる。針はそのまま胸に小さな穴を開け、膨らんでいたなにがしかの感情をしぼませていった。
今日、雨で濡れたときにでも借りたのだろうか。目を閉じれば、スーツの肩を濡らしてしまった景光さんに恵美子さんがハンカチを差し出し、微笑み合う光景が瞼の裏に浮かぶ。同時に湧き上がってきたのは、じくじくと心臓の裏側が炙られるような、そんな感覚だった。
「……っ、」
これは、嫉妬だ。
なんで、という呟きが零れ落ちて菫色のハンカチに吸い込まれていく。今まで景光さんと恵美子さんの仲に嫉妬したことなんてなかったのに、――――どうして今更、嫉妬なんか。
「……諦められてると、思ったのに」
彼を仕事として支えられる立場があればいい。想いを向けてもらえなくても構わない。ずっとそう思ってきたはずなのに、この数ヶ月で私は彼の温度や情を知ってしまった。優しくされて、大切にされて、この時間が永遠に続けばいいと心の奥で願ってしまった。この子が、景光さんに望まれた子ならいいのにと、思ってしまったのだ。
「どうしようね……」
お腹に両手を宛がって、そう語り掛けてみる。
どうしようもないことは、私が一番分かっているのにね。