極上御曹司は懐妊秘書を娶りたい
「はい。彼みたいに素敵な人は、他にいないと思います」
 宛先をぼやかした愛の告白は、一片の曇りもない私の本心だった。
 景光さんはぐっと眉をしかめると、お腹を擦っていた手を私の頬へ宛がってみせる。真っ直ぐに目を覗き込んで、皮肉にも似た苦々しげな笑みで唇の端を震わせて。
「君をこんなところで独りにしてるのに?」
「ふふ、……そうですね。でも今は景光さんがいてくださるので、独りじゃないです」
 彼は真面目で誠実な人だ。女性を妊娠させておいて、責任を取らずに離れていくような人のことを良くは思えないのだろう。でも、それが彼自身のことだと思うと、失礼だとは思いつつも少しだけ面白くなってしまうのだ。
 でも、景光さんには非なんてない。私が勝手に独りで産むと決めて、彼に責任を取らせないようにしているだけなのだから。責められるべきは私で、滑稽なのも、私一人だけだった。
「……そう、か」
「それに、いいんです。ずっと好きなまま、独りで生きていくつもりだった私に、この子を授けてくれたから」
 これも、紛れもない私の本心のはずだった。少なくとも妊娠が分かったときは本気でそう思っていたし、今だって、この気持ちがまるきり嘘だとは言わない。
 ただ、こうして景光さんと過ごす時間が本物で、この子が彼との間に望まれてできた子だったら、――――なんて『もしも』を夢想するようになってしまっただけだ。
 シーツへと落ちた呟きの余韻すらも霧散して、私たちの間に沈黙が訪れる。景光さんは何故か、私のお腹をじっと見つめて何かを考えているようだった。
 ややあって、彼の唇からぽつりと音が零れる。
「……この子、君に似るといいな」
「私にですか?」
「ああ、その男の面影なんて見つからないぐらいに。……そうすれば、」
「そうすれば……?」
「……いや、何でもない。これ以上起きていると身体に障るかもしれないな。もう寝よう」
 軽く捲られていた布団を戻した手が、今度は布団の上から優しくお腹を撫でてくれる。先ほどまでとは違う、子どもを寝かし付けるかのような、緩やかなリズム。それに唆されて、私はゆるゆると意識を手放していった。
 隣で好きな人が寝ているっていうのに、色気がないな。ちらりとそんな考えが過るけれど、相手は誤魔化したとはいえ、告白紛いのことまでしてしまったせいか、妙にすっきりとした気分だった。すとんと眠りに引き込まれて、もう這い上がってこれなくなる。
「……おやすみ、紗世」
 とろりと甘い、睦言のような囁き。
 一緒に、唇に何かが触れたような気がした。
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