極上御曹司は懐妊秘書を娶りたい
貴方を忘れる方法なんてないよ
　お腹の中の赤ちゃんが、妊娠七ヶ月目に突入した。
　経過はかなり順調で、先生も『このままいけば何も問題ない』と太鼓判を押してくれている。私自身の健康も、景光さんのお陰できちんと保たれている。
　ただ七ヶ月目ともなると、身体の変化はかなり大きなものとなっていた。
　この間まではなだらかなラインを描いていたお腹が、今や随分と大きくなって、何をするにもずっしりと重たい。元々持っていた服の大半は着られなくなってしまったし、少し歩くだけでも腰が痛くなったり息が上がったりと、生きづらいことこの上なかった。仰向けで寝るのだって躊躇するぐらいだ。
　それでも、これがこの子の成長の証なのだと思うと嬉しくて、ついつい事あるごとにお腹に手を当てて、心の中で赤ちゃんに呼びかけてしまう。産婦人科に顔を出すタイミングが悪いのか、まだ性別は分かっていないけれど、妊娠当初からすると考えられないぐらい、私はこの子のことが大好きになっていた。
　だからこそ、辛いこともある。
「通勤が辛い、か……」
「はい……」
　　頷くふりをして目を伏せたのは、これ以上目を合わせていると、他の理由があることを悟られてしまいそうだったからだ。ハウスキーパーを始めてからというものの、彼はよく私の表情を読んでしまうから、念のため。
　私が『そろそろハウスキーパーも限界かもしれない』という話を切り出したのは、いつも通りに二人で夕食を食べ終わったタイミングだった。その理由として挙げたのが、このお腹での通勤の辛さだ。
　私の最寄駅はそこそこ古く、駅構内は基本的に階段で移動しなければならない。自宅からも十五分ほど歩くのも負担と言えば負担だし、時間帯によっては電車も割合混むので、お腹が潰されないかひやひやすることもある。
　ただ、これはあくまで表向きの理由だ。
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