極上御曹司は懐妊秘書を娶りたい
 パーティーにおける私の役割は、『男女ペアでの参加が必須』という要件を満たすことだ。
 つまり、最初の挨拶回りさえ終わってしまえば用なしということである。
「ん、……美味しい」
 会場の隅のほうでひとり、適当にとってきた食事をちまちまと口に運ぶ。パーティーが始まってかれこれ二時間。楽しみといえば、珍しい料理を一つずつ食べて材料当てをするぐらい。壁の花も板についてきてしまい、思わず独り言が零れるぐらいだ。流石に暇だし、飽きてもくる。
 ――――やっぱり、城阪社長のところにいればよかったかな。
 ちらりと頭を掠めた考えに、私はいやいやと首を振る。駄目だ。もし『心細ければ隣にいるか?』という城阪社長の問いに頷いていたら、今頃はあの女性だけで構成された人だかりの中心で、死ぬような思いをする羽目になっただろう。
「相変わらず城阪さんはすごいな……」
「まあ、あそこまでいくと勝とうとは思わねえよなあ」
 呆れ半分、感嘆半分。近くにいる男性二人の会話が耳に入って、私は内心頷いた。
 今、城阪社長はざっと十五人ほどの女性に囲まれていて、彼女たちから入れ代わり立ち代わりアプローチを受けている最中だ。恵美子さんから『あれは本当にすごいわよ。私を殺しそうな目で見てくるんだもの、失礼しちゃう』と聞いていたけれど、いざ本物を目の当たりにすると、嫉妬を飛び越して感動すら覚えてしまう。
 まあ、流石の私でも嫉妬心がまるでないわけではない。城阪社長が絶対に女性たちに靡かないと分かっているからこそ、こうやってぼんやり眺めていられるのだ。
 うちの会社は、女性をメインターゲットとした美容系の商品も扱っているから、ああして女性に囲まれるのは仕事の一環でもある。どこまでも仕事に真面目で貪欲な彼にとっては、こうしたパーティーも『男女の交流の場』というよりも『情報取集の場』なのだろう。
 それに、城阪社長の難攻不落っぷりはこうした界隈でも有名で、今までどんな美女が言い寄っても、浮いた噂の一つもないらしいし、――――そこまで考えたところで、人だかりの中から見慣れたシルエットが現れたのが見えて、私は目を瞬いた。
「社長……?」
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