極上御曹司は懐妊秘書を娶りたい
君をどうしたって手放せない
 どうやら初恋とは、叶わないものらしい。
 そんな言葉を舌先で転がしながら、壁際で料理を楽しんでいる、美しく着飾った彼女を眺めた。
 いつもなら月村を伴って向かう、自分と同じような立場の人間が集まるパーティー。ここに彼女を連れてきたのは、単純に俺がそうしたかったから。女性に囲まれている俺に見向きもせず、皿の上の料理に夢中になっている様は大変可愛らしいが、複雑なのも事実だ。彼女は相変わらず、俺に興味がないらしい、――――それを突き付けられて、思わず溜息が零れた。勢いよく手元のグラスを呷れば、かっと胃の腑の辺りが焼ける。
 俺は他の人間よりも恵まれた立場に生まれたことを自覚しているし、そのことに感謝こそすれ驕ったことはない。それは俺が慎み深い人間だからというわけではなく、昔から、本当に欲しいと思ったものほど手に入らない人生を送ってきたからだ。母親からの愛情を一番に受ける立場や、父を傍で支える本社の役職は、俺が焦がれ、手に入れられなかったもののほんの一部に過ぎない。
 そうして代わりに与えられるもので折り合いをつける生き方にも慣れた頃、俺の目の前に現れたのが彼女、――――麻田紗世だ。
 劣悪な労働条件下に置かれていたという麻田は、最初こそ心まで凍り付いて、少しも笑わない人形のような女性だった。彼女を採用したのは能力を買ってのことだったが、その姿が昔の自分と重なって、どうにも気になってしまったのも事実で。
 最初はただ、自分が責任を持つ社員の一人だから、なるべく心身ともに穏やかであってくれたらと思っていただけに過ぎない。それが彼女と接して、その折れず曲がらずにいた美しい性根を知っていくうちに、『俺が笑わせてみたい』という思いが芽生えたのだ。
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