極上御曹司は懐妊秘書を娶りたい
 ――――『いいの? 彼女のお腹の中にいるのが他の人の子どもでも』
 ――――『貴方のことだし、紗世ちゃんだけを大事にして子どもは愛さない……なんてことはないでしょうね。でも、流石の貴方でも思うところぐらいあるでしょう。辛くはないの?』
「……この子、君に似るといいな」
 思いついた言葉が、そのまま唇から飛び出していく。脈絡のない台詞を不思議に思ったのか、こちらを見つめていた紗世が何度か目を瞬いた。
「私にですか?」
「ああ、その男の面影なんて見つからないぐらいに。……そうすれば、」
 何も考えることなく、君とその子を溺れるほどに愛してやれる、――――そんな言葉を脳裏に並べてみてから、俺は緩く首を振った。
 もし紗世に少しも似ていなくても、結局俺はその子を愛してしまうだろう。自分の子でないことは死んでしまいそうなぐらいに悔しいが、それでも愛しい彼女の子どもであることだけは確かなのだ。彼女が大切にしたいと思っているものを、俺も一緒に大切にしたい。彼女ごと守って、愛してやりたい。
 俺の愛は、きっとこういう形をしている。
「そうすれば……?」
「……いや、何でもない。これ以上起きていると身体に障るかもしれないな。もう寝よう」
 紗世の心に、他の男が棲みついていたって構わない。その抱え込んだ想いごと愛して、いつか塗り替えてみせるから、――――彼女がハウスキーパーの契約を終える日に、全ての想いと、二人を幸せにさせてほしいという決意を伝えようと決めた。
「……おやすみ、紗世」
 瞼を下ろし、穏やかで深い呼吸を始めた紗世の唇に、そっと指先を押し当てる。
 ここにキスをする、いつかの日を夢想しながら。
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