極上御曹司は懐妊秘書を娶りたい
「……紗世?」
ハウスキーパーの契約満了まで、あと二週間と少しとなったある日。俺が会社から帰宅すると、真っ暗な廊下に出迎えられた。いつもだったら『おかえりなさい』と出迎えてくれるはずの紗世は現れず、家の中はしんと静まり返っている。
そういえば、――――昼間、忘れた書類を届けに来てくれたことに対するお礼のメッセージにも、返信が来ていなかった、ような。
どっと嫌な音を立てた心臓が、全身に冷えた血液を送り出す。俺は急いで靴を脱ぐと、それを揃えることなくリビングへと飛び込んだ。
「紗世!」
電気を付けるが、ここにも紗世の姿はない。寝室も、洗面所も、全ての部屋をくまなく探したものの、紗世は見つけられなかった。電話をかけてみても応答はなく、電源が入っていないという音声だけが右耳を突き刺す。家を一周してリビングに戻ってきた俺は、気を落ち着けるためにとコップ一杯の水を勢いよく飲み干した。
そして、最初に見たときには気が付かなかった、テーブルの上のシンプルな封筒に目を留める。
「これは……」
この家に入れるのは俺と紗世だけ。俺が用意したものでないのなら、これは彼女がわざわざここに置いたものだろう。
震える手で封筒を開き、中の便箋に目を通す。然程長くもない文章を二度ほど読み返して、それから俺はようやく、――――紗世が自分の手から零れ落ちていったことを理解したのだった。
手の中から封筒が滑り落ち、がしゃんと音を立てる。硬質な音と共に飛び出してきたのは、俺が彼女に渡した、この家の合鍵だ。
ハウスキーパーの契約満了まで、あと二週間と少しとなったある日。俺が会社から帰宅すると、真っ暗な廊下に出迎えられた。いつもだったら『おかえりなさい』と出迎えてくれるはずの紗世は現れず、家の中はしんと静まり返っている。
そういえば、――――昼間、忘れた書類を届けに来てくれたことに対するお礼のメッセージにも、返信が来ていなかった、ような。
どっと嫌な音を立てた心臓が、全身に冷えた血液を送り出す。俺は急いで靴を脱ぐと、それを揃えることなくリビングへと飛び込んだ。
「紗世!」
電気を付けるが、ここにも紗世の姿はない。寝室も、洗面所も、全ての部屋をくまなく探したものの、紗世は見つけられなかった。電話をかけてみても応答はなく、電源が入っていないという音声だけが右耳を突き刺す。家を一周してリビングに戻ってきた俺は、気を落ち着けるためにとコップ一杯の水を勢いよく飲み干した。
そして、最初に見たときには気が付かなかった、テーブルの上のシンプルな封筒に目を留める。
「これは……」
この家に入れるのは俺と紗世だけ。俺が用意したものでないのなら、これは彼女がわざわざここに置いたものだろう。
震える手で封筒を開き、中の便箋に目を通す。然程長くもない文章を二度ほど読み返して、それから俺はようやく、――――紗世が自分の手から零れ落ちていったことを理解したのだった。
手の中から封筒が滑り落ち、がしゃんと音を立てる。硬質な音と共に飛び出してきたのは、俺が彼女に渡した、この家の合鍵だ。