ぽっちゃりナースですが、天才外科医に新妻指名いただきました

「遅い。もうオペ開始時間だ」

 オペ用制服を着た進藤さんが冷ややかにこちらを見下ろしていた。

「す、すみません。部屋の変更連絡が……」

「言い訳はいい。早く患者さんを中へ」

 進藤さんの後ろからオペ室看護師がふたり出てきて、患者さんを運んでいった。そのうちのひとりがこちらを見て、意地悪く目を細めたような気がした。

「ファイルを」

「え?」

「患者の個人ファイルだよ。いつも持ってくるだろ?」

 差し出された手のひらを見て、さあっと血の気が引いた。

 今、患者の情報はすべて電子カルテに入っている。

 ただ書類のスキャンや入力のミスがあるといけないので、緊急連絡先や手術の同意書などをクリアファイルに入れて保管しておくのだ。それを持ってくるのが、この病院の決まり。

 いつもやっていることなのに、今日に限って病棟に置いてきてしまった。

「忘れました。すぐにとってきます」

 私は走って病棟に戻り、ファイルを持ってオペ室に戻る。

 オペ室の事務員さんにそれを渡せばとりあえずセーフなのだけど。

「はあ……」

 やっちゃった。病棟が忙しかったからって慌てちゃいけなかった。

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