ぽっちゃりナースですが、天才外科医に新妻指名いただきました
「おい、お前」
声をかけられてしまった。
私、お前っていう名前じゃない。気づかなかったふりして立ち去ろう。
「高場看護師!」
ぴたりと足を止めてしまった。あと少しで出口なのに。
名前を呼ばれたのに無視したら、こっちが悪いことになってしまう。
私は渋々振り返った。
「逃げることないだろ」
原研修医は私を帰る職員の邪魔にならないよう、食堂の方へ手招きする。
職員用の食堂はドアこそ開いていたが、今は営業時間外なので誰もいない。
しんと静まり返った場所で、原研修医とふたりきり。
嫌だ。帰りたい。
逃げることないって言うけど、そりゃ逃げるよ。だって、顔を合わせるたびに嫌なことばっかり言ってくるんだもん。
うつむいていると、原研修医がぼそぼそしゃべりだした。
「私服だと印象が変わるな。前もそう思った」
嫌味を言われるのだと思い込んでいた私は、思わず顔を上げてしまった。
原研修医は照れたような、なんとも気色悪い表情をしていた。
「で、なんのご用でしょう?」