ぽっちゃりナースですが、天才外科医に新妻指名いただきました

「おい、お前」

 声をかけられてしまった。

 私、お前っていう名前じゃない。気づかなかったふりして立ち去ろう。

「高場看護師!」

 ぴたりと足を止めてしまった。あと少しで出口なのに。

 名前を呼ばれたのに無視したら、こっちが悪いことになってしまう。

 私は渋々振り返った。

「逃げることないだろ」

 原研修医は私を帰る職員の邪魔にならないよう、食堂の方へ手招きする。

 職員用の食堂はドアこそ開いていたが、今は営業時間外なので誰もいない。

 しんと静まり返った場所で、原研修医とふたりきり。

 嫌だ。帰りたい。

 逃げることないって言うけど、そりゃ逃げるよ。だって、顔を合わせるたびに嫌なことばっかり言ってくるんだもん。

 うつむいていると、原研修医がぼそぼそしゃべりだした。

「私服だと印象が変わるな。前もそう思った」

 嫌味を言われるのだと思い込んでいた私は、思わず顔を上げてしまった。

 原研修医は照れたような、なんとも気色悪い表情をしていた。

「で、なんのご用でしょう?」

< 159 / 171 >

この作品をシェア

pagetop