ぽっちゃりナースですが、天才外科医に新妻指名いただきました

 いやそれ、好きじゃない人から言われたら、ただの脅迫。

 言い返す間もなく原研修医の顔が間近に近づいてきて、思い切りのけぞった。

 この人、ムリヤリなにする気なの。考えるのも恐ろしい。

「なにをしている!」

 泣きそうになった瞬間、乱暴にドアを開ける音がした。

「あっ!」

 食堂の入口に立っていたのは、進藤さんだった。

 原研修医は咄嗟に私から顔を離す。が、手は肩をつかんだまま。

「放せ」

 つかつかと歩み寄ってきた進藤さんが、原研修医の腕を強い力で掴んだ。

「違うんです、先生。俺はこの人に誘惑されて」

 おぞましい嘘を平気でつく原研修医。あまりの状況に、私は言葉を失った。

「千紗」

 進藤さんに見つめられ、私は首を横に振る。

「ありえません!」

「だと。早く放せ。警察を呼ばれたいのか」

 警察と聞き、原研修医はパッと手を放した。

「千紗は俺の婚約者だと、前にも言ったはずだ。これ以上の嫌がらせをするようなら、日本の病院では働けないようにしてやる」

 進藤さんにぎろりとにらまれ、原研修医はたちまち青ざめた。

 彼の実家は日本屈指の大病院だし、全国に伝手があるのだろう。

 敵に回したら、本当に医者として雇ってくれる病院がなくなるかもしれない。

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