若き社長は婚約者の姉を溺愛する
「ああ。代理の方だが、まず、話をしたいとのことだ。驚いただろう」
「もう! サプライズなんていいから、お父様、大事なことは早く言ってよ!」

 盛り上がる三人は、私が目に入っていない。
 空気そのものだ。
 食事の片づけが終わったら、乾燥機を回していた洗濯物を取り出し、アイロンが必要なものには、アイロンをかける。
 洗濯物を片付けていると、玄関のインターフォンが鳴った。
 お客様だと気づき、出ようとしたところを梨沙が止めた。

「美桜はお茶の準備をして!」
「来たか」
 
 父はスーツ姿で、母も着替え、慌てて階下へ降りてくる。
 よく見ると、梨沙はシャネルのスーツに着替え、メイクを直し、香水をつけて登場した。
 主役は梨沙のようで、これからなにが始まるのだろうと、三人を眺めた。
 
「美桜さん。大切なお客様がいらっしゃったの。お茶を運んで。粗相がないようにね!」
「はい」

 お湯を沸かし、急須を棚から出して、お茶菓子には昨日焼いた甘納豆と抹茶のパウンドケーキを切った。
 煮た小豆を入れてもいいけれど、甘納豆だと簡単に作れて、見栄えもいい。
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