若き社長は婚約者の姉を溺愛する
◇◇◇◇◇

 週末の土曜日、休みだという一臣(かずおみ)さんは、午前中の朝早くから沖重の家へやってきていた。
 沖重の経営状況が、思わしくなく、宮ノ入の本社に行った行員が、ある噂を耳にしたと聞いたからだった。
「宮ノ入社長には、心に決めた女性がいるそうじゃないですか。あの会見の場に、騙して引きずり出したと聞いて、親戚として恥ずかしい思いをしましたよ……!」

 一臣さんは恥をかかされたことに腹を立て、父と継母を責めた。
 二人は小さくなっていたというのに、梨沙だけは違っていた。

「騙したなんてひどいわ! 宮ノ入会長からは、顔合わせをしたらどうかと言われたのよ。そうなったら、会長公認でしょ?」
「それはただの見合いだ。婚約とは違う!」

 髪を固めて、いつも乱れがない一臣さんの髪は、ぐしゃぐしゃ頭をかきむしったせいで、せっかくセットした髪もボサボサになってしまっていた。
 今日一日、かなりイライラしていたようだ。

「おじさんもどうかしている! マスコミまで集めて、なにをしてるんだ! これで、宮ノ入社長と結婚できなかったら、沖重は信用を失うことになる!」

 穏やかな一臣さんは、どこへ行ってしまったのか、相当焦っていた。 
 父が経営状況を誤魔化すために、マスコミを呼んで、宮ノ入のバックアップがあると騙ったのは、本当に一時しのぎ。
 結局はなにも改善していない。

「宮ノ入と婚約したというから、今回は返済を延ばしてあげたけれど、次回はできない」
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