若き社長は婚約者の姉を溺愛する
「ま、待って、一臣さん。沖重に宮ノ入さんが、お見合いの話を持ってきたのは本当よ」
「そうよっ! 沖重の娘さんをくださいって言っていたわ」

 継母と梨沙は慌てたけれど、一臣さんは冷静だった。

「それは、美桜ちゃんのことだったんだろう?」

 わざわざ言わなくていいのに、一臣さんは口に出して言った。
 継母と梨沙がこちらを見ている気がして、私はいつでも逃げられるよう裏口のそばにいる。

「でも、私と美桜を間違えたんだと思うの」
「そうよ。梨沙のほうがかわいいでしょう」
「美桜ちゃんは美人じゃないですか? 眼鏡をかけているから、わからないだけで」

 継母と梨沙の嫉妬と憎悪を感じ、寒気が走った。
 今日は全員が殺気立っている。
 ここにいてはいけない気がして、裏口から外に慌てて飛び出した。

 ――絶対、一臣さんはわざと二人を煽ったんだわ。顔が笑っていたのを私は見逃さなかった。

 しばらく、怖くて家には戻れない。
 一臣さんが褒めただけで、この状況。
 もし、私が瑞生さんと付き合っているとバレたら、殺されるんじゃないだろうか。
 
 ――あり得ない話じゃない。
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