若き社長は婚約者の姉を溺愛する
 道を歩いていると、銀のベンツが坂を上ってくるのが見えた。
 それは見覚えがあった車と同時に、サングラスをかけ、ヤクザのように見える八木沢さんが、運転席にいたため、とても目立っていた。
 後部座席に誰がいるのか、すぐにわかる。

「瑞生さん!」

 この状況で、まさか瑞生さんが現れるとは思っていなかったから驚いた。でも、それ以上に会えて嬉しかった。
 土日の間は、会えないだろうと思っていたから。

「美桜。エプロンのまま、散歩か?」
「あ……こ、これは……」
「まあ、いい。今日は誕生日だろ?」
「そういえば、そうですね……」

 すっかり忘れていた。
 そもそも、誕生日のお祝いをされたことがなく、誕生日を特別に感じていなかった。

「あれ……? 私の誕生日って、瑞生さんに教えていましたか?」
「いや」

 私と瑞生さんが見つめ合うこと数秒。
 その答えを運転席にいる八木沢さんがくれた。

「瑞生様が息抜きに、人事部のデータにアクセスしたら、今日が誕生日だとわかったんですよ」
「職権濫用じゃないですか……って、瑞生さんたちは、土曜日なのに仕事をしていたんですね」
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