若き社長は婚約者の姉を溺愛する
 頭の中にこびりつく『お前のせいだ』の声。
 過去の苦しみを思い出して、泣きそうになり、声が上ずった。

「俺は宮ノ入だ。簡単に負けない」

『宮ノ入であること』を自分に言い聞かせて生きてきた。
 巨大財閥宮ノ入グループ――私に気安く接するから、忘れそうになるけど、瑞生さんは社長だ。
 私の手を握り、微笑んだ。
 その手は温かく、力強くて大きい。

「来週末、引っ越そう。準備をしておいてくれ」
「本当にいいんですか……?」
「あの家にいて、美桜がどうしているか考えるほうが嫌だ」
 
 きっと今日も私を心配してくれて、忙しいのに時間を割いてここにいる。
 休日はどうしても沖重の家で過ごす時間が長くなる。
 だから、気がかりだったのだろう。

「ありがとうございます」

 お守りみたいに、私はそのカードキーを握りしめた。
 これがあるだけで心強い。
 守ってくれる人がいるのは、こんなに幸福なのだと初めて知った――
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