若き社長は婚約者の姉を溺愛する
引き離される二人
 誕生日の日に、瑞生(たまき)さんからプレゼントされたマンションのカードキー。そのカードキーを引っ越しまでの間、夢じゃないかと思って、何度も眺めて確認していた。
 夢じゃない証拠に、私の手元に消えずに残っている。
 眺めているだけで、心が上向きになれたし、継母や梨沙(りさ)の嫌みも気にならない。
 会社の机の上にあるカレンダーを眺める。
 今日は金曜日。

 ――とうとう明日。明日、私は沖重(おきしげ)の家から出ていく。

 継母たちは明日の午前、八木沢さんが仕組んだ『無料ランチご招待券』によって、ホテルランチへ行くことが決まっている。
 ホテルは宮ノ入グループの関連会社で、本物のホテルランチの無料券だ。
 継母たちのホテル利用履歴を調べ、最近使ったことがあるホテルを選び、抽選で当たったことにし、無料券を送った。
 八木沢さんの策は完璧で、ホテル側への根回しまでしてある。

「沖重先輩。八木沢さんが先日のアンケート結果の集計方法について、聞きたいことがあるそうです」

 気づくと隣の席の木村さんが、内線の電話を受けていた。

「帰る前に秘書室に寄って、集めたアンケート用紙を持ってきてくださいって、おっしゃられてました」
「ええ。わかったわ」

 八木沢さんは上手に理由を作る。
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