若き社長は婚約者の姉を溺愛する
 明日から一緒に暮らすのに、会えたことが嬉しい。

「渡したいものですか?」

 こちらへというように、私を窓際へ呼ぶ。
 窓からは、濃い緑色に染まった公園が見える。
 私たちが昼食を食べているベンチも眺めることができた。
 その風景を眺め、瑞生さんは私の手を取った。
 そして、銀色に輝く指輪を左の薬指にはめ、指にキスを落とす。
 まるで、大切なものを慈しむように――

「瑞生さん。これは……」
「婚約指輪を受け取ってほしい」

 涙で目の前が歪み、声にならずに瑞生さんを見つめる。
 瑞生さんは涙で濡れた眼鏡を外し、机の上に置くと、私の顎をつかむ。
 どちらからともなく、目を閉じ、唇を重ねた。
  
「現実だ」

 眼鏡で隔たれた世界が、ひとつになって、私も幸せな世界の一部になれるのだと思えた。
 もう一度だけキスをして、瑞生さんは私の首に銀のネックレスをつけてくれた。

「ネックレス……?」 
「指輪をいつも身に付けていられるように、用意した。それと、この鎖は俺から逃げられなくするため」

 本気なのか冗談なのか、わからなくて笑ってしまった。
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