若き社長は婚約者の姉を溺愛する
 昔は女中部屋として使用されていた部屋で、キッチンの横にある。
 トイレやお風呂もついていて、完全に家人とは別だ。
 
 ――私は家族じゃない。

 ため息をつき、お風呂のお湯をはる。 
 お湯の湯気に、今日も一日無事に終わったのだと、ホッと息をつく。
 お風呂から出ても、まだお客様はいるようで、なにか声が聞こえてくる。

「なにか、もめてる?」

 会話の内容までは聞こえないけれど、騒いでいるような気がした。
 梨沙のお見合いなのか、それとも会社のことなのか――どっちにしても私には関係のない話だ。
 一日の疲れから、どうでもよく感じて、お客様が帰る頃には、眠ってしまっていた。
 この時、私はまだ気づいていなかった。
 八木沢さんが持ってきた話が、これから始まる騒動の発端になるということを――
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