若き社長は婚約者の姉を溺愛する
「宮ノ入グループの本社ですね。わかりました」

 清掃会社は巻き込まれただけで、迷惑をかけるわけにはいかない。
 素直にうなずいた私を見て、他の清掃スタッフは心配そうな顔をした。 
 きっと私は、ひどい顔色をしていたに違いない。
 でも、私は黙って沖重本社を出て、宮ノ入本社へ向かう。
 継母の狙いは、私を働いていた場所で掃除をさせ、知り合いにその姿を見せ、私に恥をかかせるのが、継母の目的なのだろう。

 ――ずっと尾行されてる。

 興信所の人なのか、アパートを出てから職場まで、ずっと監視されている。
 継母は少しの時間でさえ、私に自由を与えるつもりはない。
 いつまで、あの監視が続くのか、わからなかった。
 梨沙が結婚するまでなのか、私が死ぬまでなのか――継母の憎しみには底がない。
 会社に入ると、梨沙がいた。
 私が来ることがわかっていた梨沙は、入口を見張っていたようだった。
 入ったなり、瑞生さんの腕に自分の腕を絡め、高い声で言った。
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