若き社長は婚約者の姉を溺愛する
 アルバイトの真嶋さんは明るい声で、掃除道具の説明をしてくれた。
 道具が入ったカートを押しながら、やってきたのは総務部があるフロアだった。

「フロア内は社員が退勤後に、掃除をすることになっているので、廊下とトイレから、始めましょう」
「はい」

 真嶋さんは三角巾とマスクで、顔はわからないけれど、若そうに見える。
 パスカードにはアルバイトと書いてあるから、大学生だろうか。

「えっと、私が男子トイレを掃除しますね。廊下が終わったら、一緒に女子トイレの掃除をお願いします」
「わかりました」

 廊下の植木鉢の下もモップをかけため、移動させながらの大変な作業だ。
 知っている人もいたけれど、素通りして行き、誰も気づかない。
 でも、一人だけ私に気づいた。

「えっ……!?」
「き、木村さん……」

 口元に指をあて、静かにしてと合図する。
 監視の人がいるのだ。
 カートから、『清掃中』の札を手に取り、女子トイレ前に置く。
 木村さんは頭の回転が良く、私が札を置く前にサッとトイレに入り、私と会話してもおかしくない状況を作る。

「沖重先輩、なにかあったんですか?」
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