若き社長は婚約者の姉を溺愛する
 さすがに女子トイレに、監視の男の人は入ってこれないようだった。
 木村さんは小声で、私に尋ねる。

「話すと長くなるんだけど……。私に監視の人がついていて、関わるとなにをされるかわからないの」
「もしかしてなんですけど、社長の本命って、沖重先輩ですか?」
「どうしてわかったの!? 気づいたのは木村さんだけよ?」

 両腕を組み、木村さんは天井を見上げた。

「情報の羅列です。まず、社長が海外支店に戻ってきた時期、沖重先輩の香水。それから、八木沢さんの呼び出しですか。情報を揃え、流れを組み立てることによって、難敵も攻略できる……いえ、結果が生まれるんです」
「そ、その通りよ。でも、よく答えを弾き出したわね」
「得意なので」

 フッと木村さんは不敵に笑った。
 八木沢さんの力を持ってしても、女性(主に木村さん)の勘の鋭さの前では、無力だったということだ。

「あと、社長の婚約者を名乗る女が、先輩のロッカーの荷物を漁りに来たので隠しました。余計かなとも思ったんですけど、私のロッカーに荷物を移しておきました」
「本当に!? 助かるわ」
< 127 / 205 >

この作品をシェア

pagetop