若き社長は婚約者の姉を溺愛する
 真嶋さんはすばやくエプロンのポケットから、持ち歩いているメモ帳とペンを取り出した。

「これに住所か地図を書いてください。社長に渡してきます」
「もし、私に協力したとわかったら、ひどい目に遭います。今までずっとそうだったんです」

 私が断ると、背中をバンッと叩かれた。

「若い時は、私も随分とヤンチャをしたものさ。紙切れ一枚くらい忍ばせるくらいなんてことないね!」

 全員の拍手が巻き起こる。
 気分は女スパイなどと言って、ポーズまでとる始末。

「あんた、もっと図々しくなりな! 迷惑になるかもなんて言ってたら、いつまで経っても前に進まないよ! ほら、書きな!」
「は、はい」

 住所を書くと、それを奪い取り、清掃スタッフたちはうなずき合う。

「そうそう。それでいいよ。渡しておけば、相手は社長。向こうがうまくやってくれるはずさ!」
「私たちのチームワークをなめるんじゃないよ!」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 最強の味方ができたような気がした。
 住所を書いたメモを社長室フロアの担当スタッフへ渡す。
 
 ――どうか無事に、瑞生さんの元へ届きますように!

 そう祈らずにはいられなかった。
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