若き社長は婚約者の姉を溺愛する
「私ほうが美桜より、上品なお嬢様だと思うけど? 宮ノ入さんと同じ学校を出てるし、大学は有名な女子大。ピアノもお茶も必要な習い事は、ひととおりやってます」

 自信たっぷりに語る彼女は、なにかの間違いで、俺が美桜を選んだと思っているらしい。

「なるほど。それは結構なことだ」

 返事をしながら、『沖重梨沙』という人間を観察し、思考する。
 宮ノ入に媚びた服装は、俺に取り入り、婚約者の座を手に入れたいという欲望から。
 カードキーを手にしているということは、美桜の所持品を奪い、勝手に漁ったのだろう。
 美桜は自由を奪われ、カードキーを所持していた入れ物、バッグか財布か――身近に持っていた物さえ、失っている状況。
 自信たっぷりに交渉に来るということは、美桜は向こうの監視下にあると思っていい。
 俺との取引のため、人質として美桜をどこかへやった。
 宮ノ入の目の届かない場所へ。
 沖重が持っている不動産は金に困って処分していると、調査結果で明らかになっている。
 なら、美桜を隠したのは、義母の実家が所有する物件だろうと簡単に推測できた。

「私と結婚するなら、美桜の居場所を教えてあげる」

 ――俺と交渉するつもりか。

 待っているのは、まともな交渉ではない。
 もちろん、罠同然の交渉テーブルにつく気はない。
 だが、場所を探る時間がいる。
 ここでやり込めるのは簡単だが、相手を刺激するのは得策じゃない。
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