若き社長は婚約者の姉を溺愛する
 なにをしようとしているか、理解したはずだ。

「美桜の居場所を知りたいんでしょ? 私に言うことがあるんじゃないの? 例えば、私を婚約者にするとか」

 ちらちらと俺に視線を送る。

 ――これ以上の会話は時間の無駄だ。

 あの様子では、言いなりになったところで、居場所を言うつもりはないだろう。
 美桜の身柄が一番の切り札である。
 俺に居場所を教えてしまえば、すぐにでも奪い返され、向こうは不利になる。
 沖重側は美桜の居場所を言わずに、宮ノ入に沖重を支えさせ、自分の娘と結婚させ、タイムリミットを迎えさせるつもりだ。
 逆に沖重の経営を支えずにいる間は、美桜に危害を加えられない。
 沖重の策略をどうにかするには、少し時間がいる。
   
「申し訳ないが、今日は仕事がある。月曜日、宮ノ入本社を案内し、話をするというのはどうだろう?」
「宮ノ入さん直々に!?」
「もちろん。ぜひ、社長室へ」

 宮ノ入の親戚たちがざわめいた。
 役員であっても、なかなか足を踏み入れることのできない宮ノ入の社長室フロア。
 そのフロアへ入れると知った梨沙の頭の中は、『自分は特別』という優越感で満たされた。
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