若き社長は婚約者の姉を溺愛する
「興味が出た。二人で話してみたい」
「私と話したい……? それって……」
「婚約の話をもう一度考えてもいいと思っている。確かにもっとよく考えるべきだった」
「そうでしょ? 美桜が相手なんてあり得ないもの」

 マンションのキーに唇を寄せ、梨沙は毒の含む笑みを見せた。
 
「鍵は返さないわよ? 今後、必要になるかもしれないし」
「そうだな。持っているといい」
「わかったわ。それじゃあ、月曜日にね? 約束よ?」
「ああ」

 俺の返事に舞い上がり、大喜びして帰った。
 宮ノ入の親戚たちは、俺の視線を受けて蜘蛛の子を散らすように、慌ててエントランスから出ていった。
 
 ――これで二日。時間を得た。

「二日あれば十分だ。直真。沖重を買収する準備は整っているな?」
「もちろんです」
「居場所が分かり次第、沖重を叩く」

 ずっとそうするつもりで、準備を進めてきたことを沖重側は知らない。
 支援などするわけない。

 ――すべて食らうのが、宮ノ入。
 
 なにもかも失ってから、思い知れ、
 俺から一瞬でも美桜を奪い、彼女を苦しめたことを後悔させてやる。
 間違いなく、俺は『宮ノ入』だった。
< 138 / 205 >

この作品をシェア

pagetop