若き社長は婚約者の姉を溺愛する
手が振り下ろされる前に、アパートのドアが目の前で吹き飛ぶのが見えた。
 吹き飛んだドアが、一臣さんの後頭部に直撃する。

「誰だ……! ぐっ!?」

 一臣さんの問いかけは完全無視。
 黒い影が部屋に入ってくるなり、一臣さんは容赦なく蹴り飛ばされ、その体が壁にぶつかる。
 入ってきたのは二人組で、一臣さんはパニック状態だった。
 あまりに行動が早すぎて、なにが起きたかわからず、口をぱくぱくさせ、怯えた様子で腰を抜かしている。
 私は誰なのか、気配だけでわかる。
 数日しか離れてないのに、気配だけで懐かしいと思う感情。
 私にとって、恋人以上の特別な存在――

「瑞生さん!」  
「美桜!」

 私を抱き締め、無事を確認する。
 瑞生さんは無事を確認し、安心したのか、息を吐くのがわかった。

「う、訴えるぞ! こんなことして許されると思うのかっ!」

 壁際に追い詰められた一臣さんの声は焦り、怯えていた。
 怯える一臣さんの前には悪魔……、八木沢さんが眼鏡を外し、その眼鏡を胸のポケットに差し込んで、美しい笑顔を見せていた。
 闇の中に映える美しさ。
 それが、八木沢さんの本性だ。

「訴える? 訴えるのはこっちなんだが?」

 八木沢さんは隠しカメラを玄関前に仕掛けてあったらしく、ドアの上から外す。
 今日の夕方あたりから撮影していたようで、カメラには一部始終が残っていた。
< 143 / 205 >

この作品をシェア

pagetop