若き社長は婚約者の姉を溺愛する
『沖重の家から、君を買った』

 自分の声に一臣さんは、身を震わせた。

「なぁ? まさか、これだけとは思ってないよな?」
 
 八木沢さんが悪い顔をして、楽しそうにしている。
 いたぶることに慣れているらしく、気絶しないように一臣さんを殴る。

「おいおい。殴られたままか? 面白くねぇなあ。反撃しろよ。もしかして、お前が反撃できるのは弱い者にだけか?」
「く、くそっ! お、覚えてろ。絶対にお前に復讐してやるからな!」  
「俺を相手に脅しか。面白いな。復讐? やるなら、遊んでやるから、いつでも来いよ」

 挑発する姿は、まさに悪魔。
 どう足掻いても一臣さんが、勝てる相手だとは思えなかった。

「あれが直真(なおさだ)の本性だぞ。絶対に怒らせるな」
「は、はい……」
「本当はもっと早く突入する予定だったが、外の監視をどうにかしないといけなかったからな」

 そういえばそうだった。
 私を監視している人がいたのに、その人は騒ぎを聞き付けても、ここへ来てない。 

「そうなんです。監視がいたはずなんですけど……」
「祖父の悪い癖で、俺や直真を試す。たぶん、美桜のことも試した」
「私が瑞生さんに相応しいかどうかってことですか? マナーとかお茶とか、そのピアノが弾けるとかじゃなく……」
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