若き社長は婚約者の姉を溺愛する
「そういったものを祖父は重視しない。生きる力が強いかどうか試された」

 ――生きる力。

 自分より早くに逝ってしまった息子。
 宮ノ入という大きな家を任せる重責に、耐えられるかどうかを試されたということだ。
 ここに瑞生さんたちが、たどり着き、私を救出したということは、私は合格したのだろうか。

「宮ノ入のジジイが放った監視役だ! まったく無駄に腕が立つから、時間がかかる!」
「直真は弱いわけじゃないんだが、スタミナ不足でSPたちに、苦戦しがちだからな」

 あの熊のような繁松(しげまつ)さんを思いだし、八木沢さんの細身の体には、厳しい気がした。
 しかも、相手はプロである。
 宮ノ入会長は容赦のない人らしい。
 八木沢さんは眼鏡をかけなおす。
 
「年よりの根性論はそろそろ終わりにしてもらわないと困ります。根性さえあれば、なんとかなるって思ってますからね。あのジジイは!」

 八木沢さんがイライラと一臣さんの服を脱がし、カメラで撮り、だらしない姿を残す。

「八木沢さん!? なにしているんですか!?」
「瑞生様。美桜さんを連れて、先に車へ戻ってください。汚いものを見せたくありませんから」
「わかった」
 
 私の体を軽々と抱え、瑞生さんはアパートを出た。

 落ちないようしがみついた体から、瑞生さんの香りがして、安心して涙がこぼれた。

「頑張ったな」

 なにも言えずに泣く私の頭を優しく撫で、その手のぬくもりに、また涙がにじみ、なかなか泣き止めなかった。
 
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