若き社長は婚約者の姉を溺愛する
 でも、以前の私と違っていた。
 卑屈になって、瑞生さんから逃げた気持ちとは別。
 私の胸の内にあるのは、この現実を受け止めなくてはという新しい感情。

『生きる力が強いかどうか試された』

 宮ノ入会長が私を試し、合格点を与えられたから、今、ここにいる。
 今後、瑞生さんの隣にいて、宮ノ入という名に耐えられるかどうか試されていたのだ。
 あれは瑞生さんに自分は相応しくないと、卑屈になってしまう私の感情を消すための試練だったような気がする。
 諦め、潰されてしまっていたなら、それでおしまいだった。
 瑞生さんと離れること以上に、辛いことがないと知った私は、共に歩く覚悟を決めた。
 二度と会えないかもしれないという絶望以上に、悲しいことはきっとない。
 浴室の鏡の前で、自分の顔を見て、きりっとした顔を作るも――昨晩、残された瑞生さんの痕が目に入り、私を動揺させ、ごんっと鏡に額をぶつけた。

「……つけすぎです」

 思い出すだけで恥ずかしすぎる。

 「のぼせそう……」

 ふわふわした感覚で浴室から出て、化粧水を手に取る。
 そして気づく――
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