若き社長は婚約者の姉を溺愛する
「あれ?」

 スキンケア用品はもちろん、使うものすべてが、甘いフローラル系の香りで統一されている。

「これを用意したのは、八木沢(やぎさわ)さんね……」

 これは女の勘である。
 私のためというより、瑞生さんが癒されるために用意されたもの。
 瑞生さんが喜ぶことなら、八木沢さんは全力を尽くす。
 八木沢さんが知らないことなんて、なにもないのではと思うくらいだ。

「もしかして、私の最強のライバルじゃ……?」

 そう思いながら、一番動きやすそうな服に着替えた。
 家事用の服には見えなかったけど、エプロンをすればなんとか――

「エプロンがない!?」

 どこを探してもエプロンがなかった。
 部屋のクローゼットは大きく、揃えられない服は一着もないのでは、というほどの量だったのに、エプロンが見当たらない。

 ――これって、家事をするための服がないってこと?
 
 洋服だけじゃなく、小物や帽子とバッグまで揃えてあるけれど、狙ったかのようになかった。

「困ったわ。でも、外には出るなと言われているし……」

 買い物にも行けない――というよりも、このハイブランドの服たちが、まさかルームウェアというオチではないわよね?
 しばらくクローゼットの前で考え込んでしまった。

「とりあえず、冷蔵庫を確認しておこうかな」

 深く考えたら負け。
 これが普通だと思って、淡々と過ごすのみ!
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