若き社長は婚約者の姉を溺愛する
 会話の録音機能、外部の人間が入れないような厳しいセキュリティ。
 今、『宮ノ入様』ではなく、『宮ノ入瑞生様』と呼んだのも、このマンションに同じ姓の人間が大勢いる証拠。
 その頂点に住んでいるのが、瑞生さん。
 当然、セキュリティが厳しくて当たり前。
 
「なんだか、閉じ込められたみたい……」

 私がここにいる限り、瑞生さんはきっと安心して仕事ができる。
 それはいいことなんだろうけど……ぐうっとお腹が鳴った。
 朝食も昼食もまだだったから、お腹が空いてしまった。

「とりあえず、お弁当食べようかな」

 部屋の前に、お弁当が入っていると思われる宅配ケースが置かれていた。
 ケースを開けると(うるし)塗りの弁当箱が現れた。
 すでに、ただものではない雰囲気のお弁当。リビングのテーブルにお茶とお弁当を運び、蓋を開けた。
 お弁当の中身は、栗おこわや山菜おこわ、赤飯が入った三色おこわの弁当で、魚の照り焼きがメイン。
 とても上品な卵焼きと煮しめの味は、これがそこら辺のお弁当屋から配達されたものではないと思った。

「さすがプロね。だしの味が違うわ。とっても美味しい……って、そうじゃなくっ!」 

 今、問題なのは、午後をどう過ごすかだ。

「あっ! 洗濯があるわ! 洗濯すればいいのよ!」

 仕事とは与えれるものではなく、自分から見つけるもの。
 動揺のあまり、そんな初歩的なことさえ忘れていたなんて、私もまだまだねって――そうでもなかった。
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