若き社長は婚約者の姉を溺愛する
 洗濯機と洗剤はあるけど、柔軟剤がないという現実。

「柔軟剤のない洗い上がりって……」

 柔軟剤のふんわりした感触がないと、満足できない私。
 そこは長年、沖重の家事を担当してきた私としては、妥協したくない部分だ。
 というより、最低限である。

「ホテルに宿泊してるみたい。部屋の中の生活感はゼロだわ」

 お昼を食べ、しばらく悩んでいると、またインターホンがなる。

「お客様?」

 応答しようとしたけれど、自動応答に負けて出られなかった。

『アフターヌーンティーをお持ちしました。どうぞお召し上がりください。終わりましたら、お部屋の前に置いていただければ、回収いたします。それでは失礼します』
「アフターヌーンティー!?」

 お昼を食べたばかりなのに、部屋の前にはワゴンが置いてあった。
 紅茶のポットとカップ、ケーキスタンドには色々な種類のケーキとピンクのマカロン、ピンクのクリームがのったカップケーキ、一口サイズのサンドイッチがあり、可愛らしくピンクのリボンで飾り付けされている。

「可愛いけど、一人じゃ食べきれないし、いくらしたのかしら……」

  電話をかけて、無駄遣いですと言いたいけど、瑞生さんは仕事中。こんなことで、電話かけるなんてと思われるかもしれない。
 でも、私の予想が正しければ、この次は夕食がやってくるはず。
 せっかく頼んでくれたものだし、ワゴンを部屋の中へ入れ、ティータイムらしく並べた。

「これはなんとかしないと……」

 生クリームを口に入れて、香りのいい紅茶を口にする。
 これこそ、贅沢で甘い生活。
 でも、頭の中はどう瑞生さんを説得しようか、そればかり考えていたのだった。
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