若き社長は婚約者の姉を溺愛する
◇◇◇◇◇

 瑞生さんは忙しい――そんなことわかっていたつもりだけど、昨日帰ってきたのは夜中で、リビングで会話をするつもりが、気づくと瑞生さんは眠っていた。
 まるで、大きな獣のように、ソファーに転がり、毛布もなにもかぶらず、安心しきった姿。
 そんな瑞生さんを見たら、私は起こそうなんて気にはなれず、寝室まで引きずり、なんとかベッドまで運んだ。
 そして、捕まえるなら朝しかないと悟った私は、翌朝、出勤前に話し合いの時間をもらった。
 
「美桜。朝から、直真(なおさだ)まで呼んで、話ってなんだ?」 
「悪さはしてませんよ?」

 まだなにも聞いてないのに『悪さしてませんよ』とは、どういうことだろう。
 それに、二人はどこか不自然で、目が泳いでいるような気がした。
 私が改まって、話をするから驚いたのかもしれない。
 たいした話じゃないのに驚かせて、申し訳ない気持ちだけど、今後の平穏のためにも言いたいことは言っておかないと。

「いいから、二人とも座ってください」

 私はいつになく厳しい声で言った。
 なにが始まるのだろうかと、二人はお互いの顔を見た。
 二人は反抗せず、素直にソファーに座る。

「これを」

 紙を一枚、二人の前に差し出した。

「購入を検討していただきたいのですが」
「洗濯用洗剤、柔軟剤、アイロン、アイロン台、鍋、フライパン、調味料、エプロン、動きやすい服? これ、いるか?」
 
 不用品だと思ったのか、途中で読み上げるのを止めて、瑞生さんは不思議そうに言った。

「私の必要な物リストです!」
 
 というか、一般的な日常生活を送るなら、家庭にひとつくらい置いてあるものばかり。

「サービスがあるだろう? ああ。サービスで満足できないなら、宮ノ入家の家政婦を呼んだほうがいいか」
「そうじゃないんです!」

 八木沢さんの育ちは庶民。
 私の気持ちを察しているはずだと気づき、瑞生さんにわかりやすく説明してくださいと、目で合図を送る。

「美桜さんの言いたいことが、わかりました」
「八木沢さん……!」
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