若き社長は婚約者の姉を溺愛する
「昨日、遅刻したでしょう?  今日は絶対に駄目ですよ」
「わかってる」

 ダイニングのテーブルに座った瑞生さんは、肩を落とし、ため息をついた。
 
 ――社長じゃなかったらよかったなんて、思っていたらどうしよう。

 今まで一人でも平気だったのに、一緒にいたい気持ちになるのは同じ。
 私だって、瑞生さんがそばにいてくれたら、安心できる。
 でも――

「瑞生さんは宮ノ入になくてはならない存在ですから。社員として、そう思います」

 沖重本社を見た後だからわかる。
 安心して働けるというのは、特別なことなんだと。

「……わかった。仕事に行く」
「朝食を食べましょうか。私、少しの時間でも瑞生さんといられるのは、嬉しいとおもっていますから」
「寂しいけど嬉しい?」
「瑞生さんと同じ気持ちです」

 私と瑞生さんは微笑み、出来上がった朝食を口にする。
 味噌汁も塩鮭も、炊きたての白いご飯にとてもよく合った。 

「うまい」
「届けていただいた食材で、朝から豪華な食事になりました」
 
 私の腕だけではなく、食材の力でもある。
 鮭もいい塩加減で、脂がのっている。
 身がふっくらしているのは、分厚いからだろうか。
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