若き社長は婚約者の姉を溺愛する
「お味噌汁、おかわりしますか?」
「ああ」
「そういえば、瑞生さんにお願いがあるんです」
「いいぞ」
「まだなにも言ってません!」

 食事が進むのはいいことだけど、なんだか、餌付けしているような気持ちになってしまう。
 せっせと瑞生さんはご飯を食べ、私の話もちゃんと聞いているのかどうか怪しい。

「外出できるようになったら、同じ課にいた木村さんと掃除スタッフの方々に会いに行きたいんです。たくさん助けていただいたので、お礼をしたくて」
「わかった。外出できそうなタイミングを直真(なおさだ)と相談しよう」
八木沢(やぎさわ)さん?」
「直真に後処理を任せてあるから、打ち合わせしておかないとな」

 後処理の言葉に不穏さを感じたのは、私の気のせいだろうか。

「後処理って、なにを片付けているんですか?」

 瑞生さんはハッとして箸を止め、顔を上げた。

「仕事関係の後始末……だな」

 怪しすぎて、私はじっと瑞生さんを見つめてしまった。
 私の視線に気づいた瑞生さんは、無理矢理話題を変える。

「えーと、そうだ。日曜日、祖父に挨拶に行きたいと思っている」
「会長にご挨拶ですか……。わかりました」
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