若き社長は婚約者の姉を溺愛する
  ◇◇◇◇◇

 ――瑞生さんのお祖父様に会う。

 それは、宮ノ入グループ社長の妻になる覚悟を決めるということだった。
 化粧台の上に置いてあった眼鏡に気づき、手を止める。
 瑞生さんのマンションに来てから、眼鏡を一度もかけていなかったことに気づく。
 しばらく、眺めてから、化粧台の引き出しの中へ仕舞った。
 もう、私と世界を隔てるものは必要ない。
 すべてが現実――瑞生さんがそばにいて、私はその隣いると決めたのだから。

「美桜。準備は?」
 
 瑞生さんの声がして、ドアを開けて部屋の外へ出る。

「できました」

 スーツに真珠のネックレス、それから、瑞生さんからもらった婚約指輪。
 着替えて部屋から出てきた私が、眼鏡をかけていないことに気づいた瑞生さんは、微かに笑みを浮かべ、指輪をはめた手を取った。
 
「行くか」
「はい」
 
 久しぶりに外に出たけれど、とても天気がよく、海風が心地いい。
 その海風の中、車を用意し、待っていたのは八木沢さんだった。 

「八木沢さんも一緒に行くんですか?」
「直真も祖父に会いたいらしい」
「そろそろ死相が出ていないか、見てこようと思いまして」

 会長と八木沢さんの不仲は今だ続行中。
 なんと返答すれば、いいのかわからず、苦笑で返した。
 いつものことなのか、瑞生さんは気にせず、車に乗った。
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