若き社長は婚約者の姉を溺愛する
 八木沢さんが運転する車は、郊外へ向かう。
 ビルが減り、木々が増え出し、田舎まではいかないけれど、緑に囲まれた場所に、会長宅はあった。
 高い壁に囲まれ、車が近づくと門扉が自動で開く。
 それだけでも、圧倒されるものがある。

「要塞みたいだろ?」
「ええ……。そうですね」

 私が一番驚いたのは、敷地に車を駐車し、ドアを開けた瞬間だった。
 ドラマで見るような黒服のSPが、どこからともなく現れて、私たちの前を阻み、瑞生さんたちと対峙する。
 
「なっ、なにが始まるんですか?」
「訓練だ」
「ジジイが飼い犬を運動させるために、わざわざ放し飼いにしてあるんですよ」

 八木沢さんは冷たい口調で言ったけれど、瑞生さんはなにも言わずに車から降りた。
 ため息をつきながら。八木沢さんはスーツの上着を脱ぎ、手首のシャツのボタンを外す。
 瑞生さんのほうはスーツを着たまま、一切乱れがなく、いきなり、殴りかかってきた人達の腕をつかみ、地面に倒した。
 八木沢さんも同様に、放たれた蹴りを腕で受け止め、軽々と転ばせる。
 相手はプロ。
 すぐに立ち上がり、反撃を繰り出す。 
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