若き社長は婚約者の姉を溺愛する
 車から離れられず、その姿を黙って眺めているしかなかった。

「さすが瑞生様と直真さん。鈍っているかと思っていましたが、そんなことなかったですね」

 黒服の人たちは攻撃を止め、拍手をする。

「俺を見るなり、毎回、本気で襲いかかるな! クソジジイの犬どもが!」

 八木沢さんがキレている。

「直真さんも精進され、大変喜ばしいことです。宮ノ入に来た頃は、我々に何度も負けていらっしゃったのに」
「ふざけんな! プロに素人が勝てるか!」
「瑞生様は負けません」 
「俺の育ちが悪いって、はっきり言えよ」
「直真さんが悪いのは性格ですよ」
 
 殴り合いはしていないものの、言い争いは続いていた。

「美桜。もう大丈夫だ。今のは挨拶みたいなものだから、気にするな」

 気にするなと言われても気になる。

 ――なんて好戦的な血なの……。

 場が落ち着くとSPたちと和解というか、瑞生さんが八木沢さんをなだめ、解散させた。
 広々したお屋敷は、玄関までが遠く、沖重の家がいくつも入りそうな広さだった。
 玄関に着くと、お手伝いさんが待っていて中へ案内してくれる。
 和庭園の中庭に面した居間からは、外の眩しい緑が見えた。
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