若き社長は婚約者の姉を溺愛する
「瑞生様、直真さん、御前(ごぜん)がお待ちです」
「美桜は?」
「まずは、お二人とお話したいそうです」

 八木沢さんの舌打ちが聞こえた。
 ここに着いてから、黒ヤギが隠しきれていない。

「なにを企んでやがる。あのジジイ」

 呼ばれただけでこれなら、会話になると、どんな会話をしているのか、知りたいような知りたくないような複雑な気持ちになった。

「仕方ない。美桜。ここで少し待っていてくれ」
「はい」

 二人は苦い顔をしていた。
 あの二人にあんな顔をさせる会長はいったい何者だろう。
 二人がいなくなってすぐに、別のお手伝いさんが私を小声で呼ぶ。

「美桜様、こちらへ」
「えっ!」
「お静かに」
「はい……」

 言われたとおり静かにし、お手伝いさんの後ろからついていく。
 中庭の木々が黒い影を屋内に作り、風が吹くたび、木目の綺麗な渡り廊下の木の壁に影が映り、絵のように揺れて見える。

 ――なんて立派なお屋敷。

 要塞みたいな外壁から想像できない繊細な雰囲気がある。

「どうぞ、奥へ進んでください」

 池がある奥の庭に案内された。
 ここで、お手伝いさんと別れて一人になった。
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