若き社長は婚約者の姉を溺愛する
 庭へ行くための外履きが置かれてあり、それを履いて外へ出る。

「お久しぶりです。会長がお待ちですよ」
「以前、車を運転していただいた繫松(しげまつ)さんですか?」
「ははは、名前を覚えていただき、大変嬉しく思います。今日は運転手ではなく、会長の護衛を任されています」

 誰からと、聞くまでもない。
 すでに出迎えの襲撃を受けたばかり。
 瑞生さんと八木沢さんからの報復を防ぐためだろう。

「会長が瑞生様と直真さんを出し抜くのは親心。常に一歩先を歩み、二人を成長させようとしているんです」
「そうですか……」

 繁松さんは会長に心酔しているようで、瑞生さんを慕う八木沢さんと同じ目をしていた。

「ささ、奥へ。会長がお待ちです」

 庭の奥へ案内された。
 庭は打ち水をしたばかりなのか、庭は水を含み、緑を濃くしている。
 足に力を込め庭石をしっかり踏みしめて、池のほうへ近づく。
 そこには、着物姿の老年の男性がいた。
 おじいさんと呼ぶには、背筋が伸び、威圧感があったため、呼ぶに呼べなかった。
 怖じ気つかないよう深呼吸をし、そして吐く。

「はじめまして。沖重美桜です」

 挨拶をすると、会長は現れた私に気づき、こちらへゆっくりと視線を向ける。
< 178 / 205 >

この作品をシェア

pagetop