若き社長は婚約者の姉を溺愛する
「よくきたな」

 弱々しい雰囲気は一切なく、低い声は瑞生さんとよく似ていた。
 そのせいか、さっきまで感じていた緊張感は消え、ほっと息を吐く。

「ご挨拶に伺いました」
「知っている。瑞生とはうまくやっていけそうか」
「はい」

 迷わず返事をすると、会長は苦笑する。
 宮ノ入グループ社長の妻である。
 即答するとは思っていなかったようだった。

「その質問がきたら、そう返事をしようと決めていました」
「ふん」

 もっと慌てる姿を想像していたのか、予想と違ったらしく面白くなさそうに、鯉に餌をやる。

「会長はここで独り暮らしですか?」
「孤独な老人扱いするな。人は大勢いる」
「瑞生さんや八木沢さんにちょっかいをだすのは寂しいからかと思っていました」
「そんなわけあるか。未熟な二人を鍛えてやっているだけだ」

 気のせいでなければ、鯉の餌がさっきよりも多く池に入った気がする。
 図星だったのかな……

「のんきなものだ。宮ノ入が沖重グループを買収し、直真が社長となるというのに。娘であるお前はそれでいいのか」
「働いている社員の生活が守られるなら、それでいいと思います」
 
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